第五章
白い透き通るような身体で、眼球が電子でできた羽根までのいたるところに開いている存在が、為端の目の前に降りて来た。
第三十九宇階層北。
基錠を開放し、或維衆が浸透してくるのをセーフ・ハウスでソファに座り、電子タバコを吸いながら待っているところだった。
彼等が炭燈楼に入ってくれば、目的の三分の一は達成できるのだ。
しかし、突然の侵入物だった。
サングラスが明らかに混乱したデータを送ってくる。
彼は動かなかった。
白い人型の物体は、輝く電子の線を幾本も伸ばし、為端を含め侘部屋中に接触する。
それは一見、光りに見えた。
「……ほぅ」
身体内を走る感触に、感嘆げな声を小さく呟く。
祇でも鬼でもアウトフレームでもない。
「お初のお目見えだなぁ」
煙を吐き、前のめりになりながら相手を上目見た。
電子の線は為端の意識の奥にいる、遊にも接触した。
『……鬼を持つのか……』
白い人型から言葉が漏れた。
サングラスは混乱を収め、ひとつの結論を脳に伝達した。
神。
部屋中が相手の意思に脈動している。
下手に動けば、身体の崩壊もありうる支配力だった。
『もっとも鬼と言えるほどじゃない。小鬼か……』
「……拝んで欲しいのか、それとも供物の要求か?」
無視して為端は動じることなく、余裕ぶって挑発する。
神の眼球は一斉に彼のサングラスを掛けた顔に集中した。
「……遊」
ガラスが割れるかのような悲鳴が上がり、為戴にまとわりついていた電子の線が切断された。
ジャケットの懐から拳銃を抜き、そのまま床に一弾を撃ち込む。
神の目が蠢いた。
動揺したのだ。
為端はははっと笑い、適当に部屋のあちこちを撃つ。
その衝撃は、同期していた神に直接衝撃として伝わっていた。
神は部屋への電子の接触を切り、天井のものだけにした。
瞬間、為端はいきなりソファから外に駆けだした。
自分のところに神が降りてきた。
想定外だ。
繁華街裏の雑踏とした細い道路を複雑に走り回りながら、彼の頭はフル回転していた。
ことによると、あの優生思想をもったОS。
すぐにサングラスが解析を始める。
当たりだった。
しかもОSはよりによって或維衆ともパイプを持っている。
椋悠は仮オフィスで日本の警察庁から送られてきた書類をチェックし終わったところだった。
独りのスーツ姿の男が、尋ねてくる。
「……故暮が知事以下都議会をまとめました」
「そうか。斗空によろしく伝えてくれ」
それだけで男は去った。
いよいよ、彼女の母体であるОSが動き出した。
浸透させていた上層の連中に影響を与え、把握下に置いた。
ことは順調に行われていた。
そこに、隣からコーヒーを入れたマグカップを一つ持って鹿等目が現れた。
「いやぁ、これは例の「一月の雨」事件から洗い直さないと、炭燈楼の復興は難しいですなぁ」
快活気に馴れ馴れしく言って来た。
この狸も何を考えているかわからない。
「あの、電子飽和で祇が現れた事件ですか」
椋悠はデスクで冷静に対応した。
立ったまま頷く鹿等目。
「そこで調べたんですが。我々は共同の任務に当たり、友好的かつそれらをもって情報を共有するべきですな」
彼女は無表情で何も答えないでいた。
マグカップの中身を一口すすると、真っすぐ椋悠を見つめてくる。
「……たまたま、ОSの遺祇統括機構が行った以前の活動のひとつで二年前、東京上陸作戦ってものがある記録をみつけまして。これがいわゆる「一月の雨」事件だったんですなぁ。しかし、結果は見事に失敗して、ズタボロに撃退された、んだそうですが」
椋悠はまだ答えなかった。
マグカップを彼女のデスクに置いた鹿等目は、一息つく動作だけを見せて、続けた。
「本当ですか?」
「お話の中の撃退したというのは、どこの勢力です?」
流れるように、椋悠は聞き返した。
「ウチの特殊作戦群でした」
「なら、わたしに聞くまでもないのでは? 事後処理やその他もろもろの記録もあるようでしょうし」
「それが、わたしのところには流れてこないのですよ」
「詳細はこちらでも確認いたしましょう。閣下もお調べください」
鹿等目は、かすかに目を細めた。
「……そうですな」
マグカップを再び取り、彼は隣の自分の執務室に戻った。
机の上には、陸上自衛隊別班からの偽装された報告書が置かれていた。
そこには、ОSが「一月の雨」事件を起こしたことが明言されていた。
彼はさっそく、別班に炭燈燈に潜入した工作員を使った、対ОS作戦を指示した。
ペッドボトルから構成促進剤をストローで飲みながら、楓は通路にあるベーカリーショップのテーブルに座り、ハムと明太子のサンドにコーヒーを目の前に置いていた。
上野エリア第三十九階層階層西。
昇れる事実上の最上階というので観光目的の人々が行き来するこじんまりとした繁華街と言った風だ。
特にこの階層は人々に一種の畏敬の念を起こさせるのか、いかにも信心深そうなタイプが多い。
彼女は不機嫌丸出しだった。おかげで周囲にはピリピリとした空気が張られて、誰も寄ってはこない。
今、楓は必死にあらゆる回線を使ってミケタを追っているが、気配のけの字もない。
挙句、為端はどこかで東雁基錠を解放した。
一体何を考えているのか。
それどころか、第四十層に掻けた破られたものがある。
認識規定では捉えられない現象が起きていたのだ。
そして、新たに第七条、祇のいる空間を異界と呼ぶ、第八条、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ。の二つに抵触するような状況が出来ている。
規定のそのものではないところが、楓に違和感を与えていた。
電子の流れが異様に上層部から降りてきているのだ。第七条を強引に当てはめると、何とか認識下に状況を置けた。
祇とも鬼とも違う存在が、現れていたのだ。
何と言ったらいいか、楓にはわからず、本部に問いただした。
『炭燈楼上層部には、「神」と呼んでよい存在があることは確認している』
返答はこれだけだった。
神?
いきなり、そのようなものを目前にされて、どうすれば良いというのだ?
ようやく、楓は聞くことにした。
拘束される嫌悪感で避けていたことだ。
「……ウチの最終的な任務、なんでしたっけ?」
『最終的には炭燈楼の祇を政府管轄の公安特別班の管理下に置くことだ』
楓は、息を吐きながらサンドウィッチを一口つけた。
「なんでウチ一人が選ばれたんでしたっけ?」
『君はそのための先兵として潜入してもらった』
舌打ちしかける。
「祇を管理下に置くとどうなるんです?』
『東京の未解決事件全てのヒントを得ることができ、なおかつ今後の東京の治安を制御できるようになる』
「解決するんですか?」
『制御するためには色々ある』
明言を避けていることに、楓の眼はやや細くなった。
何故、この時期に?とは聞かなかった。
ミケタによる、地上破壊に原因があるのはわかりきっていた。
結局、ミケタをどうにかしなければならないという話に戻る。
電染により、第三十九宇階層西の風景がゆっくりと変わってゆく。
事実上の最上階として観光名所になり、繁華街になっていた。だが建築物の形が不定形になり、融合し、オリエンティックな神殿風に造り変えられていた。
神が至る経路。
神経がそこに集まっていた。
彼等はその階層、三十九階を畏れて降りて来たのだ。
畏れる何かがあったのだ。
だが、それら神経はいつの間にか強引に一点に集められ下層に引きずり降ろされつつあった。
お陰で神が形をとり、顕現することができていなかった。
ただ、三十九階層に特異点が出来たことは確かであり、炭燈楼で勢力を張る者たちに無視できることではなかった。
「……神、ね。手に負えそうにないんだけどね……」
いきなり、ところどころで弾けるような大きな電気の放電があり、変化と同時に階層にいた人々は混乱をきたした。
走り込んできたのは、大きなパーカーで胸元にはリボン、ショートパンツをはいた均衡のとれたショートカットの中性的な少女だった。
服は塵と染みで汚れてところどころ破れ、額や左腕から血を流していた。
爆発に飲まれこまれて、吹き飛びながらもなんとか走り回っていた。
「楓!」
彼女は、視線で相手を捉えると、荒い息のまま一直線に向かって来た。
稀宇だ。
楓は、思わず身構えて手を拳銃に這わせる。
「おまえならなんとかできるだろう! 物理攻撃が効かない! こいつらを散らせろ!」
『祇殺し』が必死に訴えてきていた。
その後ろで爆発が連続する。
神と見られるモノは八柱。
奥に一体、仮面のようなものを被り、狼に似た座り方をしてこちらを見つめている者がいた。
あとは、吸い込まれるような純白の人型の姿で口が顎まで裂け、眼球が幾つも身体に開き、光りの翼のようなものを背負っている。時折、電気の線が身体を走った。
自分なら?
意味が解らない。
稀宇に向かって拳銃を構える。
「動くな!」
「ふざけるな!」
何節もの棍状になった先に剣を付けたものが突然伸びてきて、楓の拳銃を手から弾き飛ばした。
稀宇は鬱陶しそうに辺りをみまわして、楓の身体に腕をやり、近くの物陰に隠れた。
「いいか、よく聞け?」
訳が分からないという楓に稀宇は怒気をはらんだ静かな声で言う。
楓は、とりあえず大人しくしていた。
稀宇何とか深呼吸した後で落ち着ちつき、彼女の耳に口を当てる。
「わかってんだろう? あいつらは高層にいる神ってやつだ。祇とは違う。主に精神子激を仕掛けてくる奴らだ。ターゲットにされるとアウト。だがな。決定的に確実なのは、おまえの『認識規定』が効果を発揮する」
楓は思わず稀宇の顔を見た。
認識規定が、使える?
祇殺しが神を恐れていることは確かだ。
手も足もでないのだろう。
「このあたしが頼んでるんだ、さっさとやれ!」
傲慢に稀宇は命じた。
神の二柱がゆっくりとこちらに向かって来る。
楓は何のことかよくわからなかったが、とりあえず、二柱に認識規定を当てはめれば良いと思った。
『二、祇は人や物の姿を取ることもある』がまず、起動した。
神の二柱は、「物の姿」と捉えられ、祇と認識される。
次に『七、祇のいる空間を異界と呼ぶ』が起こった。同時に『八、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ』も規定される。
『三、人間は個として中心である時に物がみえる』も当てはめられた。
ここでようやく、稀宇は背を伸ばして笑みを浮かべた。
「……よう、神様。祇に堕ちた気分はどうだい?」
不遜を極めた一言だった。
七節棍をもち、稀宇は跳んだ。
一体の祇に横薙ぎの一閃を振るうとともに、手元を縮ませて迫る。
腕で、剣の根元を受け流した祇に、反対側のたたんだ棍を高速の小さい円を描いて頭上に叩きつける。
偽の頭部は砕かれるように小さく破裂した。
稀宇は手元に戻した先端の棍の根元を握り、偽の首に剣を突き刺す。
光りの塊と化し、祇は消滅した。
次の祇は大顎を開けて迫っていた。
巨大な翼で、稀宇の周りを囲むように包んでいた。
後ろの四節まで真っすぐに横に伸ばして羽根を止め、先端の二節を喉から頭上に貫いた。
輝きの中に飲み込まれて、瞬きが消えると、稀宇はだらりと七節棍を片手に垂らし、他の祇たちに鋭い眼をやっていた。
「……やっぱりな。おまえらは堕とせる」
拍手が鳴った。
二人はその音の方を向く。
ウェーブがかった頭にサングラスをかけ、ジャケットにワイドパンツという姿の男が、ニヤニヤとして、少し離れた廃棄された建物の古い空調機の上にしゃがんでいた。
「お見事ですなぁ」
稀宇は感情の真っすぐな力強いめを向け、無表情に立っていた。
「おや、為端。終わった後に登場じゃ、大物過ぎて話に入って来れないよ?」
「へぇ。で、それよりも残りの連中どうすんだ?」
六柱が静かにこちらを伺っていた。
特に奥の仮面を被った人型の神。
それは、他の存在にある獣性が一切なく、明らかに別格として存在していた。
時間が経ってためか、他の神たちの姿がゆっくりと変わっていた。
翼を広げた大顎を持った形は、スラリとしたマネキンのような純白な人間のモノになっていた。
楓のコンタク・トレンズが、彼等をもう神とは認識していなかった。
それは「人間」だった
同時に、認識規定の「第四条、人間は存在の中にあってこそ人間である」が当てはまっている。
楓は混乱した。
「どういうこと……?」
これだと、為端は思った。
彼は楓に付けた探ぢmm機からゆっくりとそのコンタクト・レンズのデータを解析していたのである。
「……分が悪い。そこのおにーさんに頼もうかな」
稀宇は無表情で為端を見つめたままだった。
「おまえがその間、裸になって逆立ちしたままでいるってんなら喜んで受けるよ。後ろから刺されたんじゃ洒落にならねぇからなぁ」
「あたしにそんな趣味ない。黙ってやって」
凛々しいまでの真顔で返してくる。
「……あそこにいる仮面なだがな」
為端は舌打ちながらも、ニヤけていた。
電子タバコの先で、指す。
「とてもじゃないが、勝てねぇ。無理」
断言する。
どだい、神はここまで降りて来たのだ。
ならまだまだ降りてゆくだろう。
「……あんたね、何しに来たの?」
楓は思わず口に出していた。
「大体、なんでバトんなきゃならねぇんだよ。無視して上階行くぞ?」
仮面の柱を筆頭に神たちは、こちらを伺ったままだ。
それには、楓も疑問が残ってる。
「良いから行くぞ」
彼女が言う寸前に、為端は歩き出していた。
置いてきぼりになった希宇は七節棍をだらりと垂らして、神々を睨め付ける。
神々はいつの間にか稲妻をまとっていた。
「……分が悪い」
呟いて楓たちの背を追った。
「ミケタだぞー」
棒状の口調。
少女を前に、為端と楓は胡散臭そうに黙った。
階層四十階は、他の階層と比べ変わったところはなかった。
見た目だけだが。
ただ時折見かける人々が少し、雰囲気が違う。
実体のない影という雰囲気なのだ。
稀宇はすでにいつの間にか別れて姿を消していた。
ボロボロの通路を歩きつつ、為端はミケタの姿をとった少女を楓に見せていた。
「どうやって動いてんの、コレ?」
楓は淡々と聞いた。
「遊を中に入れた」
「偽物じゃん」
「身体が滅ぶ前に動かしとかなきゃなぁ。腐ったら困る」
第五条、人と人間は似て非なる存在である。第九条、人は祇とも呼ばれる。が当てはまっているのが癪にさわる。
「ミーナはもっとこう、偉そうでしょ? これじゃ着ぐるみだよ」
「人の?」
「気持ち悪いこと言うな!」
「……事実なんだが」
「最悪……本物探すよ」
「それも賛成だが、気になることが」
「そんなことは良いから!」
「そんなことより、腹減ったの」
恨めし気に上眼使いをするミケタの姿をとった遊ともいえない少女が言う。
為端と楓は目を見合わせる。
「……何か食うか」
「そうね」
ミケタは笑みを浮かべて機械的に両腕を上げた。
為端が先導し、三人はひとつの屋台に入った。
暖かい椅子の向こうには、人が居ない。
だが、今までいた雰囲気である。
たまたま席を外しているのかもしれないとはいえ、この階層の感じからこの状態が普通という確信を楓は持ってはいた。
気付くと、各種の焼き鳥の串が皿に盛られたものと冷酒がカウンターに置かれているのも驚くことではなかった。
為端はちらりと見て、敢えて手を付けずに両腕を前のめりに立てて、電子タバコを吸っていた。
楓も、串にも冷酒のコップにも手を付けようとしない。
「おまえら食べないなら、もらちゃうぞー?」
ミケタの姿をとった遊が二人を伺った。
その頭を帽子ごと為端がわしづかみにして、グルグルと回す。
まるで抵抗していないように、ミケタの首は為端の想う通りに動かされ、カウンターに軽く押し付けると、そのまま動かなくなった。
「……魂呼びを考えたんだが、今ミケタ本人は鬼だし、遊が余りに型にハマる感じで身体にフィットしてやがるんだわ」
楓はペットボトルの中身をストロー口から霧状にして串に噴射させた。
「うち等は眷属なのにここでこんなことしてて大丈夫なの?」
「偽祇の眷属は偽の眷属だよ。それに電染が下層域に広がりつつある。多分目的は鬼のミケタだ」
「あの連中……神扱いしてた奴らね」
串を一本つまむようにして皿から取り、焼かれた鶏肉を頬張る楓。
ペットボトルの中の液体が、祓いの役目をして霊の食べ物だった串を中和し、物質化できたのだ。
「祠でも造ってそこに魂呼びすればよかったのに。そうすりゃ、荒魂も和魂になんだろう?」
何でもないことのように楓はいう。
「……それじゃあ、肉体に戻れなくなるんだよ、嬢ちゃん。ところでおまえ、ただの公安の使いっ走りじゃねぇだろう?」
気が付くと為端のサングラスが曇ったかのように光りを反射させず、脇から楓のぶらっきぼうな表情を覗く。
「認識規定とかいうのも適当そうで穴がない……土御門家の人間か……」
「安倍晴明の傍系よ、ウチ」
読まれたので、楓は隠すことなく素っ気なく答える。
「あの白狐の息子かぁ……俺はあいつを信用してないんだよなぁ。白狐が何らかの形で玉藻に関係あるとも思っている。ついでに言えば、公安部別班は土御門か」
楓は細い眼をした。
「あんたこそ、ただの消し屋じゃないね」
「いや、ただの消し屋だ」
嘲るようにしたあと、淡々と押し殺したような声で答える。
「或維衆は、上野の土地から上総までひろがってるよね? 平将門の首塚が太田道灌の造った江戸城の大手門にある。どういうこと?」
「……俵藤太か太田道灌に聞けよ」
「なるほど。俵藤太も太田道灌も関係者か」
為端は小さく舌打ちして顔を逸らした。
「或維衆にとっては、だ」
串の肉を頬張りながら、楓はニヤリとした。
「ただの消し屋だから?」
「ああ……」
不機嫌そうにしている為端を、楓はようやく理解できたと思った。
突っ伏しているようで、そのまま串を口元に素早く持って来ていた遊は、遠慮なく肉にかぶりついていた。
「……うめぇ」
思わずつぶやいている。
遊は何時から為端が使っているのかわからないが、食べ物を口の中で噛んでいるという感覚を久しぶりに体感しているようだった。
「……で、遊とあんたの関係は?」
為端は冷酒に一息付けて、電子タバコの煙を吐く。
「いわゆる、怨霊というやつだな。ふらふらしてたから捕まえた」
「……あーそー」
適当さ丸出しで言う彼に、茜は呆れかけていた。
「あれー。おかしいなぁ? 捕まえたのはどっちだったかな?」
遊は悪戯っぽい顔を為端に向けたが、煙を見つめて彼は無視を決め込んでいた。
「どっちでも良いけど、ミーナの肉体に入れっぱなしで大丈夫なの? こっちが本物になるんじゃない?」
「一応、鬼胎という形をとってる。同化の確立は低いな」
「ミーナは今は?」
「どこかの階層を彷徨ってるだろうよ」
「どうやって見つけるのよ」
「神が集まってるところなら、ミケタがいるだろうな」
「……うわー、それを待ってるってこと!?」
為戴がミケタを囮にしようとしてるのを楓は素で引いたが、為端に様子の変化はない。
「大体、黙ってるミケタでもないだだろう? 派手にやるだろうなぁ」
為端はニヤニヤする。
そういえばと、楓は思った。
自分は大したミケタのことを知らないと。
「……あんたら、長いの?」
「ああ?」
いきなり何の話だと串を咥えて指に電子タバコを挟んだまま、為戴は一瞬、鋭い眼を向けてくる。
「……まぁ、待ってりゃあいつから動いてくれるわけだ。多分あいつ、ブチ切れ放題だぞ」
彼は聞こえないふりでもしているのかニヤニヤして、答えもせずに続けていた。
ふと、重要な点に気づいた。
自分が知らない、データを引っ張って来れない祇とは?
楓は、黙って為端の意図に無意識の賛同を与えた。
『帷乃裏……?』
而彌が事実上最上階に来て、身体を回転させながら帷乃裏に呼びかける。
彼女は、今や真っ白に塗った顔に片目だけ生身でもう片方は真っ赤なカラコンを入れ、元の造形をまるっきり隠したド派手なメイクをした顔をしていた。
「……きてみたはいいけどねぇ……」
彼女は両手を軽く広げて戻す。
「誰もいないし何もないじゃないの」
呆れた口調だ。
『神が降りてきた原点のはずだけど』
「それだよ」
帷乃裏はニヤリとする。
床や壁に走っている電流の線をすくうように片手で集めた。
「これをまとめれば、あんたは祇にして神を操れるわ。空間デザインなら得意だしあたしがここをマシな形にする」
『……へぇ、良いねぇ』
而彌は舌なめずりした。
『そして、僕の支配者の帷乃裏は、炭燈楼の支配者になるってことか。全て逆さまになるんだね。面白い』
「一緒にかましてやろうぜ、下界のものどもに」
帷乃裏は、両頬を釣り上げた。
なぜか無意識に表情が軋んだ。




