9、全て僕のモノ
◆王宮・東棟の離れ、皇太子の私的空間。
淡い香木の香りが漂う部屋には、アリシアと皇太子フィリップ二人だけ。
外では「聖人君子」「完璧で冷静沈着」と讃えられる皇太子は、
その仮面を脱ぎ捨てた、ひとりの男として、アリシアを見つめていた。
「アリシアは可愛いね。こんなに僕のことで震えてる。」
微笑みながら、彼女の頬にそっと触れ、
徐々に熱を帯びた指を首筋、鎖骨へと滑らせる
「駄目ですっ、殿下。」
「フィリップって呼んで。こんなに近くにいるのに、まだ他人行儀?」
唇を寄せ、ふわりと囁くその声音は甘く、けれど異常なほどの熱を孕んでいた。
「君の全部が愛おしくて、可愛くて。しかし時々壊したくなるくらい独占したくなるんだ。」
彼の手は、慈しむように、しかし執着の色をにじませてアリシアに触れる。
「君の全部を、この手で触れ確かめたい。」
普段は誰にもそんなことを言わない皇太子。
あまりに美しく完璧すぎるその男が
ただひとりの令嬢にだけ見せる、執着と欲望の顔。
彼の髪と瞳と同じ色のドレスを日々纏わされるアリシアは、
皇太子の所有物として抱きしめられ、
逃れられない愛の檻に囚われてゆく。