8、愛の檻
◆突然の通達
侯爵家に届いたのは、金糸の封蝋が押された一通の書状。
それは、皇太子直属の近衛が届けた極めて格式高い文書だった。
> 【王命に準ず】
侯爵令嬢アリシア・レーヴェ殿は、
当面の間、王都王宮区にて“安全のため保護下に置く。
出入りには皇太子殿下の承認が必要とされる。
「これは何ごとだ!?」
侯爵は目を疑った。娘が保護という名目で、王宮に軟禁されている。
だが、皇太子殿下の名があまりにも堂々と記されており、抗議も簡単にはできない。
「フィリップ殿下がまさかここまで!?」
◆アリシアの部屋──鍵が、外からかかる音
広すぎる王宮の一角。
そこは元・客人用だった部屋が、アリシア専用に改修された私室。
家具はすべて最高級。
衣装はフィリップの選定したドレスや宝飾品がびっしり並ぶクローゼット。
朝の紅茶から寝具まで、全て皇太子の趣味で統一されていた。
アリシアはドアノブに手をかける――が。
「開かない!?」
外からかすかに聞こえる、“カチャリ”と鍵の閉まる音。
その直後、扉の向こうに立つ侍女の声。
「アリシア様、皇太子殿下からのお申し付けです。
本日はお一人で、静養なさるようにと。」
「そんな、これはまるで――」
牢ではないか。
贅沢だが自由は、どこにもない。
◆侯爵家、苦悩の会議
「殿下が娘を愛してくださるのは結構だが、愛ではなく執着では?」
「いやもう、これは支配だ。」
「屋敷には近衛が立ち、監視がついている。
侯爵令嬢を『正妃』として扱う体制まで整えて。」
使用人たちは皇太子からの物資で溢れかえった侯爵邸に困惑していた。
庭には、皇太子から贈られたアリシア専用の馬車。
温室には、彼女の好物ばかりを栽培する指示。
侍女の教育まで「妃として相応しいものを」と監督が入る
「私たち、もう娘を嫁がせたことになってるのでは?」
侯爵家は震えながら、
アリシアに一時帰宅すら許されない状況に言葉を失うしかなかった。
◆フィリップの愛情(監禁)宣言
夜、アリシアの部屋。
ノックもなく入ってきたフィリップが、淡く微笑む。
「ねえ、アリシア。君は、僕のそばにいるべきだと思わない?」
「そばにとは?ずっと、ですか?」
「うん。帰らなくていい。むしろ――帰らせない。
君を自由にする理由が、どこにもないから。」
「!?」
フィリップはすぐ傍に座ると、彼女の髪に手を滑らせながら囁く。
「部屋も、食事も、衣服も、君の生活すべてを僕が用意した。
あとは、君の心と身体を僕だけに委ねてくれれば、それで完成だ。」
「怖くないよ。君が僕に従ってくれれば、ね?」
微笑みのまま、完全に愛の檻を完成させようとする皇太子。
その姿は誰にも止められない。