7、婚約発表
◆ 「運命の日」──皇太子フィリップによる【婚約発表】
上品な調度品、貴族令嬢たちが集う王宮主催の舞踏会。
本来、格式高くも穏やかな場になるはずだったが――
その場に突然、現れたのは皇太子フィリップ・フォン・エルツバイン。
完璧な装い、漆黒のオールバックに冷静に笑みを浮かべながら、
一人の令嬢の背後に立った。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。紹介したい人がいる。」
そう言ってフィリップは令嬢の手を取る。
「侯爵令嬢、アリシア・フォン・レーヴェ―僕の、婚約者だ。」
――空気が凍った。
アリシアは目を見開き、周囲の貴族令嬢たちがざわつく。
フィリップは構わず彼女の薬指に“指輪”をはめた。
その指輪は王家の紋章、鷲のエンブレムを誇る特注の品。
「これは正式な求婚ではない。ただの既成事実の一つだ。」
アリシア「待って。これは一体どういう。」
「心の準備? 怖い? そうだね君は慎ましいから、だからすべて僕が段取りした。
誰にも触れられないように、誰にも奪われないように。
指輪も、席次も、法案も、祝辞も、誓約も、
全部、僕が整えたんだ。君がうなずくだけで、世界が完成するように。」
アリシアは立ち上がるが、肩をやんわりと押さえられる。
「逃げるような仕草は、少し寂しい。
君が逃げても、僕は世界の法を変えるだけだ。
君の婚姻年齢も、君の自由も、君の名前すら僕のものにできる。」
言葉は静かだがその奥には皇太子という立場でしか不可能な“甘い狂気が滲んでいた。
◆ 関係者たちの心の悲鳴
・アリシアの父侯爵
「どうする?王族に逆らう理由などどこにも無いが
むしろ侯爵家が王家直属に組み込まれつつある今、我が家はもう逃げられないのでは!?」
・弟エドガー
「姉上が攫われている! 王族に合法的に攫われている!!!」
◆ 皇太子フィリップの愛の言葉(という名の逃亡封じ)
「……誰がなんと言おうと、君は僕のもの。
この手で包んで、閉じ込めて、溶かして、飲み込んで……
一滴残らず、君という存在を僕で満たしたい。
だから、覚悟して。アリシア。
これは、恋なんかじゃない。
“運命”という名の拘束だ。」