5、侯爵邸
侯爵家のサロン。
アリシアの父・レーヴェ侯爵とその息子でありアリシアの弟、エドガーが並んで皇太子フィリップを迎える。
「殿下、本日はご足労いただき恐悦至極に存じます。」
「とんでもない。レーヴェ侯爵閣下、ならびにエドガー殿
いつもアリシア嬢に大変お世話になっております。」
完璧な礼儀。深すぎるほどの一礼。
その美貌に優雅な敬語、誰が見ても「誠実の権化」としか思えない皇太子の姿。
エドガーが照れくさそうに言う。
「姉上のこと、よろしくお願いします。殿下のような方に好いていただけて姉上は幸せです。
「ありがとう。私はアリシア嬢のためなら、この国の体制を変えることすら厭わない。彼女の家族には、私の全てを差し出す覚悟。」
侯爵父子は思わず絶句。
――が、その真摯な表情に、ただならぬ“覚悟”の気配を感じ取りながらも、深く頭を下げた。
だが。
その裏、侯爵邸を訪れていた幼馴染
伯爵家の次男・シリルがフィリップと対面すると、空気は一変した。
「皇太子殿下。アリシア嬢とは幼き頃から親しくしておりまして――」
フィリップの微笑みは凍りついたように薄い。
冷ややかに、息すら吐かぬほどの静寂の後、彼は言う。
「伯爵家の次男としての言葉なら受け取ろう。だが、彼女と“親しく”などと、軽々しく口にするな。」
「うっ。」
「過去の関係を振りかざし、彼女のそばに立つ理由にはならない。
君が彼女に近づいた記録は、過去十年分すべて調べさせてもらった。」
シリルの顔色がさっと引く。
「書簡、贈り物、視線の角度、発言の回数――すべて手元にある。」
「!?!?」
「彼女を想った過去を否定するつもりはない。だが、君の想いが彼女に届く前に、私が全部――潰す。」
言葉は丁寧でも、声色は氷。
絶対君主の圧に、シリルは一歩も動けない。
「安心しろ。君の家には手を出さない。ただし君個人が、二度と彼女に恋の目を向けぬ限りはな。」
そして最後に囁いた。
「僕は善良な皇太子の仮面を被った悪魔だ。君のような男に、愛しのアリシア奪われる気はない。」
アリシアがまだ知らない場所で繰り広げられる、皇太子の闇の溺愛外交。




