3、カフェテラス
市内の人気カフェテラス。
アリシアは女友達とティーセットを前に、穏やかな午後を過ごしていた。
「この季節の紅茶は香りがよくて……」
「アリシア、最近本当に綺麗になったわよね。殿下の噂、最近また増えてるし!」
そんな会話が花開く中、彼女の隣のテーブルにいた数人の貴族の男性達が、ちらちらと視線を送っていた。
「……あの子、侯爵家のアリシア嬢達じゃないか?」
「めちゃくちゃ綺麗だな……挨拶くらい、してもいいよな?」
その一人が、軽く笑いながらアリシアの席に近づこうとした――その瞬間。
「――その場から一歩たりとも動くな。」
背後から、鋭い声が響く。
驚いて振り返ると、黒衣に身を包んだ男達が音もなく囲む。
制服の袖には皇太子の金の鷲章――直属の近衛隊だ。
「な、なんだ君たちは!? 俺達はただ――」
「“皇太子殿下の寵愛を受ける女性に、許可なく接触を試みた”罪により、拘束する。」
「な、接触って!? 声を掛けようとしただけ――!」
「声も視線も含まれる。異議があるなら王宮で言え。」
即座に男性達は無表情のまま拘束されあっという間に姿を消した。
店内の空気が凍りつく。
アリシアは顔を青ざめさせ、何が起こったのか理解できずにいた。
「ご心配には及びません、アリシア様。殿下のご命令により、ただの安全措置です。」
一人の隊員が、優しく微笑む。
「殿下より、“君の半径十メートル以内で不穏な空気を感じたら、即!!排除”とのご指示を賜っておりますので。」
「隊長!奥のテーブル席の青年!!アリシア様の大好物のクレープシュゼットを注文しており、何か深い関係がある疑いとのことで殿下が即刻連行するようにとのこと!」
――知らぬところで、皇太子フィリップは、恐ろしいほどの執着で彼女を包み込んでいた。
そして夕刻。
彼は彼女の帰りを宮殿で待ち、優しく手を取って囁いた。
「今日、誰かに見られてたね。大丈夫。もう、誰にも邪魔させない。」
その笑顔は、品行方正な完璧王子。
けれどその裏に潜む狂気の愛を、アリシアはまだ、ほんの少ししか知らなかった――。