20、狂愛
『王太子フィリップの独占愛 ~誰にも触れさせない、彼女は俺だけの王妃~』
アリシアが侯爵邸から王宮に戻された日
それは、王宮全体の空気が一変した瞬間だった。
王宮の奥深く、陽の光も届かぬ謁見の間。
そこに集められたのは、ただ一言フィリップによる「監視強化命令」の対象者たちだった。
「王宮の誰ひとり、アリシアに勝手に声をかけることは許さない。視線すら、私を通せ。」
言い渡したのは――皇太子であるはずの、かつての微笑みの君。
彼の視線は鋭く冷酷でこの世に存在するすべてを支配せんとする冷徹な神のようだった。
だが――。
アリシアの前に立てば、その表情は一変する。
◆
「やっと、戻ってきてくれたね。」
フィリップはアリシアの腰を引き寄せ、背後から抱きしめる。
重なる体温。
鎖のように絡められた腕は、優しくて、けれど――逃れられないほど強い。
「少しでも離れると、呼吸の仕方がわからなくなる。君がいないと、何も感じないんだアリシア。」
その声には、焦がれと渇き、そして狂気すら滲んでいた。
「この王宮の全てを君のために変えた。君のために仕組みを作り、権力を動かし余計な存在を排除した。なのに。」
喉元に熱を帯びた唇が這う。
「君の心が、まだほんの少しでも帰りたいと願っているなら――俺は、世界を壊してしまいそうだ。」
アリシアは小さく息を呑み、ただ震える手で彼の頬に触れた。
「私はもう、どこにも行かない。あなたが望むなら、何度でも王妃になるわ。」
その言葉に、フィリップの双眸が潤む。
「嬉しいよでも、君のその言葉が本当になるまで、俺は何度でも確かめる。」
押し倒されるようにベッドに導かれ、
その夜、アリシアは彼の全ての愛を注がれた。
その甘さと激しさは、魂が焼けるようだった。
◆
翌朝、王宮の空気は誰もが感じていた。
――この宮廷における最高権力者は、王ではない。
「アリシア様に近づいた文官が左遷されました。」
「昨夜、近衛隊の一人が視線が長いと見なされ、地下勤務に!」
「皇太子殿下の周囲で、アリシア様に触れようとする者が誰もいない。」
恐れと畏怖。
だが、それでもアリシアだけは、笑っていた。
彼の愛がどれほど激しくても、
どれだけ世界が歪んでも、
フィリップの愛が――たしかに彼女だけのものだから。
◆
夜、アリシアのもとに現れたフィリップは、甘やかに囁く。
「この愛が狂ってるなら、それでいい。君さえ受け入れてくれるなら、俺は神にも悪魔にもなるよ。」
そして、そっと薬指に指輪をはめた。
「もうすぐだよ、アリシア。君を王妃として戴冠させる日まで、あとわずか。
――そして、その日以降、君は二度と俺の隣から逃れられない。」
アリシアの胸元にそっと口づけが落ちる。
まるで呪いのように熱く甘く永遠を刻む。




