2、アリシアのお出掛け
政治手腕にも長け
品行方正、見目麗しく
世の女性を虜にする皇太子フィリップ
一目惚れした侯爵令嬢のアリシアが絡むと事情が少し変わってくる
「……何?アリシアが外出?」
執務机の上の書類を読みながらも、皇太子フィリップの指がぴたりと止まった。
報告に来た侍従は、その一瞬の沈黙に凍りついた。
「どこに、誰と、何時に出る?」
「え、ええと……侯爵家の馬車で、女性のご友人と書店と、あとお茶を……。」
バンッ、と重々しい音を立てて椅子から立ち上がったフィリップは、すぐさま傍らの近衛隊長を呼びつけた。
「すぐに直属の近衛兵を三十名――いや、百名用意しろ。私服も含めて配置し、アリシア嬢の動向を一歩たりとも見逃すな。周囲百メートルに不審な気配があれば即排除、店に入る前に消毒、使用済みの椅子は全部処分しろ。」
「……は、はいっ⁉」
「それから彼女の通り道には他の男が近づかないよう、沿道の商人すべてに監視を。視線を送った者は記録を取り提出。帰路は予定より一時間早めにし、万が一馬車が遅れた場合は空から護衛をつける。以上、皇太子の命だ。」
隊長は蒼白になって震えながら敬礼した。
「そ、そこまでされる理由は……?」
フィリップは無表情に言った。
「彼女の麗しい姿を見る権利があるのは、私だけだ。」
近衛隊、完全沈黙。
数名が「ご、ご乱心では……。」と呟きかけたが、誰も最後まで言えない。
そしてその日、市内では「侯爵令嬢の優雅な外出」に見せかけた、皇太子直轄の過剰すぎる警備作戦が展開されることとなる。
当のアリシアはまだ知らない
そのすべてが、皇太子フィリップの“愛”の仕業であることを。