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19、俺のモノったら俺のモノ

『誰にも触れさせない。彼女は、皇太子のものである』


王宮の長い回廊。紅い絨毯の先、控える女官たちと重臣の視線の先を歩くのは――


アリシアと、彼女の手をしっかりと握る皇太子・フィリップ。


「お前たち、見ろ。これが私の妃だ。誰も目を逸らす必要はない――ただし指一本、言葉一つ彼女に軽んじた態度を取れば、どうなるかは理解しているな?」


ぞくり、と空気が震える。

微笑みながら放たれたその声に、居並ぶ重臣たちは顔色を変え、女官は膝をついた。


フィリップの執着は、既に有名だったが


近頃は常軌を逸していた。



昼の政務の合間アリシアが庭園で本を読んでいると、


「アリシア、退屈していないか?」


政務中であるはずの皇太子が、急に現れ、アリシアの膝に跪いた。


「こんな姿を臣下に見られては。」


「構わない。私がどれだけ君を愛しているか国中に知らしめたい。」


そのまま手を取り、手の甲に長く口づけを落とす。

女官たちは俯き、庭師は震えながらその場を離れた。



またある日は、夜会。


貴族の若き令息が、礼儀正しくアリシアに挨拶をした――それだけで、彼の家は数日のうちに地方への転任を言い渡された。


「貴族ならば、身の程をわきまえよ。」


笑顔のフィリップが、静かに囁いたその瞬間の空気を、貴族たちは今も忘れられない。


「アリシア。君には私だけ見ていてほしい。私だけの言葉を私だけの愛を受け取っていればいい。」


「私は、ただの妃ではいられないのですね。」


「君は、唯一の妃なんだ。君が欲しいと言うなら、王座だって捧げよう。」


そう言って、フィリップは彼女の背後に立ち、長い髪に口づける。見せつけるように。


会場にいた貴族たちは――誰一人として口を開けなかった。



そしてその夜。


アリシアが眠るベッドに、当然のようにフィリップは潜り込む。


「今日も、誰にも触れさせなかった。君は私だけのものだと、改めて刻みたい。」


「フィリップ様本当に私は王妃になれるのでしょうか?」


「なるんだよ。君以外の女は王妃にはなれない。君以外の妃など必要ない。」



頬に瞼、指先、鎖骨にキスの雨が降り注ぎ

まるで彼女の存在を私物化するように、紅い痕を落としていく。


「ねえアリシア。君が望まなくても私は手放さないよ。君が泣いても、君を離すくらいなら。」


「殺してしまうの?」


「そんなことしない。君を殺すくらいなら世界を滅ぼしてでも閉じ込める。」


それが皇太子の微笑だった。


──王宮という名の、金色の牢獄で。

アリシアはいま最も強く最も熱く最も危険な男に愛されていた。

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