18、王宮
『閉じ込めたのは、愛の証』
アリシアの新たな部屋――
皇太子の私室の隣。今や内扉一枚で繋がっている。
その扉が、静かに軋んだ。
「フィリップ様?」
フィリップが歩み寄るたび、アリシアは一歩ずつ後退した。けれど壁に背を押しつけた瞬間、その両腕を彼に塞がれた。
「君の瞳の色が恋しかった。君の声が、息遣いが、肌の温もりが。」
頬、額、首筋にひとつ、またひとつと落ちる殿下の唇に、アリシアの体はじわじわと熱を帯びていく。
「フィリップ様だめです。」
「だめではなく好きなんだろう? 君の心も体も私を求めている。ねえ、アリシア。」
耳たぶを甘く噛まれ、アリシアは息をのんだ。
王太子は、優雅で冷静な仮面を脱ぎ捨てた瞬間、まるで別人のようだった。
官能と執着をすべて詰め込んだ瞳で、彼女のすべてを貪ろうとしてくる。
「君の声を私だけが知っていればいい。君の涙も笑顔もすべて独占したい。」
「フィリップ様は本当に変わってしまわれました。」
「君が原因だよ。君が私の理性を壊した。」
その言葉と同時に、ドレスの背をそっと撫でる指。ためらいはないが丁寧に。
アリシアは顔を赤く染め、肩を震わせた。
ベッドの天蓋が揺れ、金糸のカーテンが夜風にたなびいた。
誰にも触れられたことのない領域を、愛という名の狂気がそっと浸食していく。
それは優雅で、執拗で、甘すぎる独占の証。
翌朝――
アリシアの首筋から胸にかけて無数の紅い痕が残っていた。
誰の目にも触れぬよう、首の詰まったデザインのドレスが侍女たちによって運び込まれる。
そしてフィリップは、満ち足りた表情で告げた。
「これで、君はもう逃げられない。」