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17、王宮へ戻る

王宮の空は、侯爵家の庭園よりもずっと高く広く、そして、どこか息が詰まる。


アリシア・フォン・レーヴェは、再び王宮に戻される馬車の中で、窓の外に視線を落としていた。

帰省は、あくまで短期間の療養とされ、皇太子妃たる教育の再開とともに、当然のように迎えが出された。


それが「皇太子命令」である以上、侯爵家は何も言えなかった。


「姉上、大丈夫ですか?」


並んで座る弟のセシルが、そっとアリシアの手に触れる。

その手は細かく震えていたがアリシアは笑ってみせた。


「ええ。もう慣れたわ。」


けれど、それは自分に言い聞かせるための言葉だった。



---


王宮に到着すると、そこには完璧な笑みを浮かべた皇太子フィリップが待っていた。

漆黒の髪をなでつけた姿、整いすぎた顔、礼儀正しく物腰穏やか。

誰もが敬愛してやまない理想の皇太子。


だが、アリシアは知っている。

その笑みに隠された重すぎる愛情と狂気を。


「おかえりアリシア。寂しかったよ。」

フィリップはアリシアの手を取ったのち、強く抱きしめ何度も何度も深く濃厚な口付けを落とす。

時折その瞳の奥がわずかに揺れるのを、アリシアは見逃さなかった。


また監視される日々が始まる


侯爵家に戻っても結局は同じだった。

フィリップの命令で屋敷の周囲は王宮の近衛隊で囲まれ、他の貴族の訪問も制限された。

「皇太子妃の実家」としての扱いに、家人たちはただ困惑するばかり。


「せめて少しでも普通に過ごせますように。」


祈るような気持ちで、アリシアは王宮の奥へと戻る。

アリシアはフィリップの完璧な笑顔の裏にある圧倒的な孤独と狂おしい愛を感じていた。


彼は彼なりに、愛しているのだ。

だが、その愛はあまりに重く甘く、逃げられない。

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