第97話「逆因果領域《カオス・アルカ》」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《進行座標、完了。時間座標:不定。因果軸:未定義》
《ここより先は、“逆因果領域”です。進行に際して、記録の保証は行えません》
エーリカの声が、これまでで最も冷静で、それでいて緊張を孕んでいた。
《ラグナ・リリス》の視界に映し出されたのは、空間の常識を拒絶する光景――
星々が逆巻き、出来事が“未来から過去へ”と流れている。
「……これが、逆因果領域……」
悠真は言葉を失った。
時間は前に進まない。
むしろ、記憶の底から未来が溢れ出してくるような錯覚。
思考が“過去の自分”と同期し、何もかもがズレていく感覚。
「悠真、意識を保って!」
エリン=グレイスが彼の腕を掴んだ。
その手の温もりだけが、“いま”を引き止めてくれる。
「《ありがとう、エリン……助かる》」
《本領域では、記憶・存在・意思の境界が希薄化します》
《各員、自己の“定義”を強く保持してください》
ゼイン=コードが眉をひそめる。
「自己の定義……? 俺は、俺だ。そう言い切れないと、どうなる?」
「自分が何者か、分からなくなる。曖昧さが、“消失”に直結するのよ」
シア=ファルネウスの声は冷静だったが、その指先はわずかに震えていた。
《敵性存在を感知。構造:不明。属性:時間外因果干渉型》
《識別名:《オリジン・シャドウ》――あなた方自身の“可能性の廃棄体”です》
「……廃棄体?」
リオン=カーディアが、一歩前に出た。
「まさか、こいつら……“なれなかった自分たち”なのか?」
視界の先に現れたのは、彼らと“酷似した”存在だった。
だがその目は虚無で、声はなく、ただ圧倒的な敵意だけを放っていた。
「逆因果領域は、“可能性の墓場”だ」
悠真が、ぽつりと呟く。
「俺たちが選ばなかった未来、その犠牲たちがここに還ってくる……!」
《戦闘回避は困難。接触、不可避》
《ただし――“対話”は可能性の範疇にあります》
「対話、だと……?」
シアの眉が跳ね上がる。
「こんな化け物と、話が通じるっての?」
「いや――だからこそ、話すんだ」
悠真は艦橋の中心に立った。
「俺たちは“創文魔術”で物語を紡いできた。“語りかける”ことは、俺たちの一番の武器だ」
彼の背中に、仲間たちの視線が集まった。
「俺たちが選ばなかった可能性、捨てた願い。
それらに“意味”を与えずして、前には進めない」
悠真は瞳を閉じ、心の奥底に触れる。
「――語ろう。“失われた自分”たちに」
「《俺たちは、選び、失った。だが、それを悔やむためじゃない。
悔やんでもなお、歩くために――ここにいる》」
すると、“影”たちの動きが止まった。
彼らの中にも、微かに“声”が宿っているような錯覚。
廃棄されたはずの物語が、光とともに揺らぎ始める。
《共鳴発生。逆因果干渉により、“可能性の修復”が開始されます》
《廃棄された存在のうち、3名との“再統合”が可能です》
「まさか……失われた存在と、再び繋がれるのか?」
ゼインが息を呑む。
「それって……」
エリンが手を口元に当てた。
「……誰を、“迎える”かを選べってこと?」
《再統合の対象選定を開始してください》
《廃棄存在:記録不全の三名。詳細照合中……》
艦内に再び静寂が訪れる。
だがその中には、確かに“未来”への震えが宿っていた。
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