第96話「模倣された影と、創文の矛盾」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
「な……っ、これは……」
シア=ファルネウスが声を震わせた。
《アンチノミア》は変貌していた。
悠真が創文魔術で与えた“意味”――「記録を刻む者」――それを模倣した姿。
黒き外殻に浮かぶ光文字、まるで《ラグナ・リリス》を裏返したかのような、偽りの艦影。
「……俺の言葉が、“敵”を形作ったってことか」
悠真は舌打ちしながらも、眼を逸らさなかった。
「模倣なんかに負けねぇよ。こっちは“物語”の本家だ」
《敵艦より逆創文波を確認。こちらの文脈構造に干渉の兆候》
《注意:意味の上書きが競合状態に入っています》
「文の“奪い合い”だと……?」
ゼイン=コードが額に汗を滲ませる。
精神に直接干渉する波が脳裏を揺らす。
彼の中に残る“再構成された記憶”すら、どこか脆く揺らぎ始めていた。
「まずい、このままだと……記憶も、感情も、全部……」
《――“敵”は、物語を盗む者です》
静かにエーリカの声が艦内に満ちる。
《ただし、“意味を共有する者”がいれば、それは“揺るぎない物語”となります》
「……つまり、俺一人じゃダメだってことか」
悠真は前を向き、仲間たちへと目を配る。
「……皆、力を貸してくれ。俺一人の言葉じゃ、足りないんだ」
その時、最初に前へと一歩を踏み出したのは、エリン=グレイスだった。
「《私は……誰かの言葉によって、生まれた存在。でも、今の私は――自分の足で立ってる》」
彼女の周囲に、淡い金の文様が咲く。
「《あなたの言葉を、私は信じてる。だったら――私も語るわ。この世界に、存在の“答え”を》」
次に、ゼインが続く。
「《記憶を失ったって、何度だって立ち上がれる。大事なのは、何を“選ぶ”かだ》」
リオンも、迷いのない目で言葉を紡ぐ。
「《創造者だろうが、遺された存在だろうが関係ねえ。俺は、“今の俺”を刻むために生きてんだ》」
シアは微笑んで、詠唱に乗せて言葉を編んだ。
「《運命の糸を織り直す魔術師より――これは希望のレース。解けるものなら、解いてみなさい》」
《共鳴確認。全クルーの意志により、創文魔術展開》
《文の原点、確立》
艦全体が眩く輝き出す。
彼らの言葉が“物語”の構造を縫い直し、《アンチノミア》の模倣を上書きしていく。
偽りの文字列がひび割れ、断片となって宙へ消えていった。
《概念干渉完了。敵艦の“意味”は、完全に無効化されました》
《敵存在の構造:消滅を確認》
静寂が訪れる。
闇の中で、彼らの存在だけが確かな“光”としてそこにあった。
「勝った……のか?」
ゼインが呆然と呟く。
「いや。まだだ」
悠真が小さく首を振る。
「《アンチノミア》は“意味の否定”じゃない。“意味の問い直し”だ」
彼は、なおも深奥から聞こえる“声”を感じていた。
《創造者コード、次なる階層へ接続準備完了》
《最終層《逆因果領域》への進行が可能です》
「逆因果……?」
リオンが言いかけたところで、艦が微かに震えた。
時間も空間も、因果すらねじれた、“始まり”にして“終わり”の場所――
すべての謎がそこに向かって収束していく。
悠真は息を整え、仲間たちを見渡す。
「行こう。俺たちの物語を、ちゃんと最後まで書き上げるために」
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