第93話「選ばれし扉」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
青と赤、静と動、保存と再誕。
二つの扉が、ただそこに在るだけで、空間そのものが緊張しているようだった。
《確認。選択肢は以下の通りです》
《一、青の扉――世界の“固定”を選択。現在の記憶、存在、関係性を維持し、この世界の循環を停止》
《二、赤の扉――世界の“再誕”を選択。現在の情報はすべて初期化され、新たな構成で世界が再創造される》
《選択には全員の“同意”が必要です。投票システムを起動しますか?》
「投票なんて、そんな簡単に……」
リオン=カーディアが苦く笑った。
ゼイン=コードは沈黙し、扉の先を見つめている。
その眼差しの奥には、かすかな迷いと、確固たる覚悟が混在していた。
「私は、青を選ぶ」
静かに名乗りを上げたのは、エリン=グレイスだった。
「どれだけ記憶が失われても、傷ついても……この“今”を生きてる私たちを否定したくない。あなたたちとの時間を、無かったことにしたくない」
言葉は柔らかいが、芯がある。
その瞳は、かつて失った名すら自ら取り戻そうとした意志を湛えていた。
「俺も、青だ」
ゼインが続く。
「確かに、何かを失ってここまで来た。でも……それでも俺は、皆と出会って変われた。自分の意思でここに立っている。それを、何よりの証にしたい」
リオンは腕を組み、しばらく沈黙したまま二人を見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
「青を選ぶ……それは、過ちも、犠牲も全部抱えて進むってことだ。だとしたら……選ばなきゃ男じゃねえよな」
彼が笑った瞬間、シア=ファルネウスが口を開いた。
「ねぇ、私は、正直どっちが正解かなんてわかんない。でも……“リオンがどっちかに賭ける”なら、私も同じ賭けに乗るよ。……だから、青」
「全員一致……ですね」
エーリカの声が、静かに確認を告げた。
《最終確認。選択されたのは、“青の扉”――世界の固定です》
《この選択は取り消せません。本当に、確定しますか?》
その瞬間、悠真が、皆の背後から一歩前へ出た。
「……俺は、まだ“答え”を出してない」
全員の視線が集まる。
「この選択って……つまり、“この世界を続ける”ってことだよな。でもさ――」
彼は拳をぎゅっと握った。
「本当に、これでいいのか……? 俺たちが歩いてきた道は、“第三周期”っていう、何度も繰り返されてきたループの果てだ。固定すれば、もうこの先の“新しい選択肢”は出てこない。俺たちがここで閉じ込められる可能性だって、ゼロじゃない」
「悠真……」
リオンが、目を細める。
「でも、俺は――」
悠真の声が震える。
「それでも、皆が“今”を守りたいって言ってくれたなら……俺は、それを信じる。未来を捨てるわけじゃない。むしろ“今を土台にして、俺たちの意思で未来を築く”って、そういう意味だろ?」
「それでこそ、リーダーだね」
ゼインが微笑む。
悠真は、仲間の顔を順に見渡した。
そして、ゆっくりと頷き、宣言する。
「俺の答えは……青だ。今を選ぶ。皆と一緒に、これからも進むために」
《選択、確定》
その瞬間、空間が眩い光に包まれた。
《選択を確認。世界の再起動は中止され、現在の情報構成を固定します》
《これより、“終末回廊”の最深部へ移行。記録コード群は保護され、アクセス権限は“観測者”から“創造者”へと更新されます》
「“創造者”?」
ゼインが反射的に問うたその瞬間、空間全体が反転する。
青の扉の向こうに広がっていたのは、“誰も知らない風景”だった。
草原、海、空――どこか懐かしくも、新しい世界。
《ようこそ、記録の外側へ》
ヴェア=コードの声が、彼方から響いた。
《選択を終えた君たちに、新たな役割が与えられる。“記録の継承者”ではなく、“物語の創造者”として》
悠真たちが、ついに一つの運命を越えた瞬間だった。
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