第92話「創造の残響(レゾナンス)」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
光に包まれたゲートをくぐった瞬間、重力も時間も、全てが“沈黙”に溶けた。
ラグナ・リリスは音もなく漂い、まるで宇宙のような空間へと移行する。
「……ここが、“原初の記録”?」
エリン=グレイスの声が、静かに反響する。
その声を受けるように、空間に無数の浮遊パネルが現れた。
それぞれが、過去の記憶の断片――戦争、誓い、創造、破壊、そして“名もなき祈り”。
《この空間は、世界の構築に使用された初期コードを保管するために作られた仮想領域です》
《エーリカ》の声にも、わずかな畏怖が混じる。
「これは……神が残した“手帳”のようなものか」
ゼイン=コードが唾を飲み込む。
「いや、神ではない」
リオン=カーディアがゆっくりと首を振った。
「これは……誰かの“選択”の記録だ。きっと“始まり”に立ち会った、誰かの――」
そのときだった。
塔の中心――結晶体に近づくラグナ・リリスの前方に、突如一つの人影が現れた。
真っ白な外套、機械にも見えるその輪郭。
だが目元だけは、人間らしい温度を持っていた。
「アクセス権限を確認……完了。ようこそ、観測者たち」
その人物は、敬意と静謐を帯びた声で言った。
「私は《ヴェア=コード》。この空間の守護者であり、“記録”の最後の保管者だ」
その名を聞いたとき、ゼインの瞳が揺れる。
「……“コード”? 俺と、同じ名前……?」
「それは偶然ではない」
《ヴェア》は、まっすぐにゼインを見た。
「君は、五年前に“選ばれた”。この空間にアクセスする“可能性の器”として。そして同時に、過去の因果を断ち切る存在として」
「……選ばれた?」
ゼインが言葉を詰まらせる一方で、リオンが前に出る。
「俺たちは、ただこの世界を救いたくてここに来た。それが結果的に記録に干渉することになるなら……答えを聞かせてくれ。“この世界は、誰が何のために作った?”」
《ヴェア》は一瞬、沈黙し、それからゆっくりと手を上げた。
すると、空間全体が震え、巨大な映像が投影される。
そこに映っていたのは――
“何もない空白”。
その空白に、一本の指が線を引く。
そして、ひとつ、名前が生まれる。
〈ユーグドラシル〉――世界の原初コード。
《この世界は、破滅を逃れた他次元の残骸を組み合わせて再構築された“避難所”だった》
《ヴェア》の声が、徐々に低く、悲しみに満ちていく。
《最初の創造者たちは、自分たちの滅亡を予期し、記憶と意思をこの世界に託した。だが、次第にそれは“自己模倣”を繰り返し、変質していった。やがて、世界そのものが“意思”を持ち、自己を守るために歪んだ選択をし始めた》
「……まるで、世界が“生きてる”みたいな」
エリンが小さく呟く。
《その通りです。世界は意思を持ち、“循環”と“犠牲”という概念で自らを維持する仕組みへと進化しました》
「第三周期……」
ゼインの口からこぼれた言葉に、《ヴェア》は静かに頷く。
《“第三周期”とは、この世界の最終的な“再起動段階”。記憶、存在、時間を巻き戻すことで世界そのものを保存しようとする機構です》
「じゃあ……俺たちは、その再起動の中に取り込まれていた……?」
《そう。そして……今、君たちがここまで到達したことで、もう一つの“選択”が可能になった》
《“再起動”を止め、この世界を固定するか。》
《あるいは、“再誕”を選び、今あるすべてを手放す代わりに、新しい世界を紡ぐか。》
その選択が、静かに彼らに委ねられる。
沈黙の中、最初に口を開いたのは、エリンだった。
「……私は、失ってばかりだった。でも、それでも……この記憶を、絆を、無かったことにはしたくない」
彼女の言葉に、ゼインが頷く。
「俺も同じだ。あの日の記憶は戻らなかったけど……今、ここにいる自分は、皆と過ごした“結果”だから」
悠真がゆっくりと、前に進み出る。
「なら――俺たちで、選ぼう。誰かに“決められる”んじゃなくて、俺たち自身の意思で」
《……確認。選択肢を提示します》
そのとき、空間に二つの扉が現れた。
ひとつは、“固定”と刻まれた青い扉。
もう一つは、“再誕”と記された赤い扉。
どちらを選ぶかは、まだ誰にも分からない。
だがそれは、確かに彼らの“旅の終わり”と“次の始まり”を意味していた
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