第91話「再誕の海へ」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
白い波が、静かに打ち寄せていた。
ただ、それは“水”ではなかった。
ラグナ・リリスを包むのは、魔力と情報が融合した光の海――《再誕の海域》。
「……空間転移、完了。周囲の次元座標、安定しています」
《エーリカ》の報告が、久々に穏やかな響きを取り戻していた。
ラグナ・リリスの艦橋では、全員がまだ静かに息を整えていた。
「……終わったんだな」
悠真がぽつりと呟く。
「“眼”を超えた先に、こんな世界が広がってたなんて……」
「終わった、というより……ここから始まるのかもしれない」
リオン=カーディアが静かに立ち上がり、スクリーンを見つめる。
見渡す限りの“情報の海”。
だがその中心に、はっきりとした構造体が浮かんでいた。
それは逆さまの塔のような形をしており、塔の一番下――つまり最深部に、球状の結晶体が輝いている。
《エーリカ》がその正体を読み取る。
《構造体識別コード確認——“オリジナル・アーカイブ”。この世界の創造記録、もしくは最初の記憶装置と推定》
「……アーカイブ?」
ゼイン=コードが眉を寄せた。
「俺たちがここまで来た理由、あの五つの通路が示していたもの……全部の答えが、そこにあるってことか」
「なら……行くしかないね」
エリン=グレイスがそっと手を握る。
その手の温かさに、悠真は静かに頷いた。
「……ああ。行こう。全てを知るために。そして、帰るために」
◆
“塔”への接近は、想像以上に困難だった。
塔の周囲には渦を巻くような光の防壁が張り巡らされており、通常の航行では突破不可能。
《エーリカ》はその解析を進める中で、ひとつの真実に辿り着く。
《この塔は、“記憶”によって開かれる鍵を持っています》
「記憶……?」
シア=ファルネウスが反応する。
《五つの通路で、皆様が得た“記録”“意思”“犠牲”“忘却”“真実”。それらを統合した“自己の記憶”が、扉を開くキーです》
「……じゃあ、俺たち全員の記憶が必要ってことか」
「いや……」
ゼインが一歩、前へ出る。
「俺には、五年間の空白がある。欠けたままの記憶じゃ、“鍵”は完成しない」
沈黙が流れる。
だが、そこに一人、足音を響かせて現れた者がいた。
「だったら、あたしが補ってあげる」
そう言って笑ったのは、セラ=アーデルだった。
「ゼインの“空白”に、あたしが見てきた記憶を繋げる。五年前、あなたが何を選び、何を守ったのか……全部、あたしは知ってる」
彼女の言葉に、ゼインは目を見開いた。
「……お前、全部覚えてたのか?」
「ええ。黙っててごめん。でも今なら分かる。あなたが失ったものの意味も、ここに来た理由も」
セラがそっとゼインの額に触れると、記憶の断片が流れ込む。
仲間と笑い合う日々。
命を懸けて守った約束。
そして、別れの中で誓った未来。
全てが一つに繋がったそのとき。
塔の防壁が、音もなく崩れ落ちた。
《認証完了。“原初の記録”へアクセスを許可》
艦橋に、深く、静かな音が響く。
「さあ……行こう」
悠真が立ち上がる。
その視線の先には、塔の最深部へ続く、最後のゲート。
すべての始まりを知るために。
そして、すべての“帰る場所”を取り戻すために。
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