第90話「始原(アルケー)の眼」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
虚無の中心に浮かぶ巨大な“眼”。
それは存在の根源に通じる異形の意志であり、観測という概念すら飲み込む《始原の眼》だった。
《次元観測阻害領域に突入。再構築因子の汚染を確認》
《エーリカ》の声が断続的に途切れ、それでもシステムは最低限の航行を維持している。
「これは……干渉じゃない。意志だ」
リオン=カーディアが睨みつけるように艦の正面を見据える。
「我々がここに到達することを知っていた。……いや、“招かれていた”のかもしれない」
「でも、歓迎されてる感じじゃないな」
悠真が短く呟いた瞬間、眼の中心から黒い帯のようなものが放たれた。
それはまるで雷のように空間を切り裂き、艦を包む結界に衝突する。
《防壁、第四層損傷。次撃で破綻の恐れあり》
「各員、戦闘配置!」
悠真の号令とともに、ラグナ・リリスは全艦戦闘モードへと移行する。
魔導砲塔が旋回し、砲身に紫紺の魔力が集束していく。
「照準、固定! 照射準備——!」
「……待って、撃っちゃダメ!」
突然、叫んだのはエリン=グレイスだった。
全員の動きが止まる。
「感じるの……“あの眼”は、撃ち返してくるだけじゃない。“見てる”の。こっちの“意図”を……」
「意思を? 情報じゃなく?」
シア=ファルネウスが驚愕に眉を寄せた。
「つまり、こっちが敵意を示せば、それが倍になって返ってくる……!」
「なら、撃つ前にやるしかないってことか」
リオンが手を伸ばし、剣型の魔導端末を構える。
「俺が行く。……奴の注意を引きつける」
「待て、それは無謀すぎる!」
ゼイン=コードが一歩前に出る。
「俺たちはここまで、誰一人欠けずに来たんだ。お前だけを行かせるなんて——」
「じゃあ、どうする! 悠真!」
リオンが叫ぶ。
その瞳は、もう覚悟を決めた者のそれだった。
「……全員で、行く」
悠真はゆっくりと答えた。
「ラグナ・リリスを捨てるつもりはない。けど、このままじゃ一方的に撃たれて終わる。だったら、俺たちが出て、“眼”の注意を逸らす」
「分散行動か。囮と突撃、それに構成波の干渉役……三手に分かれて動く」
シアが素早く戦術プランを組み上げる。
「魔力伝導式の装備なら、ゼロ空間でも稼働する。艦から直接エネルギー供給ができるようにするわ」
「……なら、私も行くわ」
静かに手を挙げたのは、エリンだった。
「エーリカとわたしは、感応域が似てる。“あの眼”の感情波に一番近いものが、あるなら……わたし」
「……分かった。でも絶対、戻ってこいよ」
悠真が真っ直ぐ見つめる。
エリンは頷き、小さく微笑んだ。
◆
やがて、ラグナ・リリスから放たれる四つの小型機動艦。
その中心に立つのは、悠真、リオン、ゼイン、エリンの四人。
黒い空間を突き抜け、眼の縁へと肉薄する。
そのとき——
《——観測、確認。全存在、拒絶対象》
“眼”が動いた。
空間そのものが悲鳴を上げる。
眼球の奥から、雷のような閃光と重力波が渦を巻き、彼らを飲み込もうと迫ってくる。
「来るぞ!」
悠真が叫んだ。
ゼインが抜剣し、空間に斬撃を放つ。
リオンが直上から斬り込み、重力を切り裂く。
エリンが手をかざし、魔導光の盾を展開。
その光景はまさに、世界の終焉を拒む者たちの――希望そのものだった。
《観測中枢に直接干渉成功。制御系ノードを構築》
艦内のエーリカが声を震わせながら宣言する。
「あと少し……この“眼”を閉じれば、次元が戻る!」
「行けえええええええええ!!」
悠真の叫びが虚空に響いた。
そして、その刹那——
《観測遮断、成功》
眼が閉じた。
虚無に光が差す。
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