第89話「最後の螺旋(スパイラル)へ」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
深海のような静寂に包まれた空間を、ラグナ・リリスが漂う。
全艦に微かな振動が走り、次元構造が緩やかに反転していく。
《最終階層ラスト・スパイラルへ移行中。各機能の次元最適化を完了しました》
《エーリカ》の冷静な声が響き、艦内に残った緊張をほぐすように、艦橋へと人影が集まる。
悠真は指先に微かな痺れを感じながら、掌を見つめていた。
「……これが、最後の扉か」
「最後の、じゃないよ」
そっと横から、エリンが彼の袖をつかむ。
微笑はどこか不安げだが、確かな意志を宿していた。
「本当の始まりになるかもしれない」
「そうかもな……」
悠真はその言葉に頷く。
過去を見つめ、今を知り、それでも前を向くために。
そこへ、シア=ファルネウスが通信デバイスを手に小走りで入ってきた。
「艦外との交信は……まだ完全に遮断されてるみたい。だけど、何かが動き出してる。魔力濃度の偏差が大きすぎる」
「つまり、“何か”がこの先に待ってるってことか」
リオン=カーディアが苦笑交じりに言う。
「《記録》《意思》《犠牲》《忘却》《真実》……全部通ってきた。その先に、“まだ何かある”ってことだろ」
「何が来ても驚かないさ」
ゼイン=コードが、いつになく静かな声音で言った。
「ここまで来て、誰一人欠けてない。……それだけで、きっともう充分だ」
言葉は簡潔だったが、その背にある重みを皆が理解していた。
◆
《最終階層ラスト・スパイラルへ到達。扉、開放》
エーリカの声と同時に、艦の前方にある空間が音もなく開く。
そこは空でも海でもなく、まるで虚空そのものが渦を巻くような空間だった。
悠真は、息をのみつつも前に進む。
「エーリカ、舵を最前へ。全速……いや、ゆっくりでいい。目を逸らさず、真っ直ぐ突っ込もう」
《了解。艦首を最終座標へ固定。重力制御を開始》
艦が進むにつれ、周囲の景色が万華鏡のように歪んでいく。
そこには“空”も“地”もなく、ただ彼らの存在だけが浮かんでいる。
「ここ……やっぱり、普通の次元じゃない。観測すればするほど、構造が変わっていく……!」
シアの声がわずかに震える。
エリンが肩に手を添えた。
「……大丈夫。わたしたち、もう“壊れない”」
「うん」
◆
そして、ついに——
螺旋の中心に、その“核心”が見えた。
それは、構造物ですらなかった。
ただ、巨大な“目”だった。
空間そのものが、彼らを見つめ返している。
《観測対象、次元同調体に認定》
《再構成を開始します》
エーリカの声が一瞬、かすれる。
「——エーリカ?」
《干渉を受信。AIコア保全モードに移行します》
艦内の灯が落ち、一瞬、闇がすべてを包んだ。
その時——
「この目……見覚えがある」
ゼインが口を開く。
「これは……俺の、記憶の中にある。“世界の終わり”を映してた、あの幻だ」
言葉が、空間を震わせた。
それが“何か”を呼び起こしたのかもしれない。
悠真は前を向いた。誰よりも強く。
「来るぞ。……こいつが、最後の試練だ!」
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