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第88話「鏡の中の罪と赦し」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

《鏡面儀式開始。対象記憶との同調率上昇中——65%、82%、97%……》


無機質なアナウンスと共に、ラグナ・リリスの内部が個別の空間に変化していく。

艦内に残された者は誰一人としていなかった。

全員が、それぞれの「心の檻」に沈んでいた。



悠真の記憶領域——

波の音。磯の香り。夏の夕暮れ。


悠真は、子供のころに父とよく通った港の堤防に立っていた。


「……懐かしいな、ここ」


彼の隣に、少年時代の自分が立っていた。

無邪気に笑い、釣竿を握るその姿はまるで、時間の中に取り残された幻だった。


「なあ、知ってる? 結局、父さんは死んだんじゃない。消えたんだ」


少年が言う。

悠真の胸が強く痛む。


「あの時、怖くて何もできなかったくせに……! 父さんを待ち続けるって決めたのに、大学行って、釣りもやめて、全部見て見ぬふりして生きてきた!」


「……そうだな」


悠真は認める。

心の中で、何度も蓋をしてきた想いを。


「でも今は、こうして仲間と一緒に、戦ってる。父さんの代わりなんてできないけど……俺自身の足で、歩いてる」


少年が笑った。まぶしいほどに。


《対象・悠真、同調率100%。認識調律完了》



エリンの記憶領域——

真っ白な部屋。

窓も扉も、何もない空間。


「……また、ここ」


エリンは何度目かになるこの夢のような空間を見渡す。


そこに現れたのは、名もない少女だった。

エリン自身の、名を奪われる前の記憶。


「ねえ、わたし……存在してよかったのかな?」


その問いかけは、胸の奥に突き刺さる。


「誰の記憶にも残らない。名前もない。誰かにとって“意味”のある存在じゃなければ、生きてる意味なんてないって、思ってた……」


「でも……悠真が、みんなが、そうじゃないって教えてくれたの」


少女が静かに頷く。


「名を取り戻したから、じゃない。わたしはわたしとして——ここに在っていい」


少女がふっと溶け、光となる。


《対象・エリン、同調率100%。認識調律完了》



リオン=カーディアの記憶領域——

焼け落ちた王城の幻影。

亡霊のように立ち尽くす少年兵。


「おまえは、“選ばれた”王子だった。だが、民も、兵も、家族すら救えなかった」


リオンの前に現れたのは、過去の自分に取り憑く「声」だった。


「過ちを悔やんでいるフリをするな。おまえは今も、その罪を力に変えている。贖罪のふりをした“逃げ”だ」


「……違う」


リオンは剣を構える。


「俺は、自分の弱さも罪も忘れていない。だからこそ——もう一度、守るって決めたんだ」


亡霊が叫ぶように消えた瞬間、炎の中に差し込む光が一筋、彼の胸を貫いた。


《対象・リオン=カーディア、同調率100%。認識調律完了》



ゼイン=コードの記憶領域——

記憶の“空白”に沈む海の底。

名前すらなかった頃の、自分自身。


「君は誰だ?」


海の底に現れた“鏡”が問いかける。


「わからない。でも……それでも、前に進みたい。名前がなかった俺を、今の仲間たちが“ゼイン”と呼んでくれた。だから、それで十分なんだ」


鏡にヒビが入り、その向こうから、自分自身の姿が現れた。


「君は、君だ。もう何も足りないものはない」


《対象・ゼイン=コード、同調率100%。認識調律完了》



シア=ファルネウスの記憶領域——

木漏れ日の中、母の膝枕で眠る少女。


「母様……」


シアの瞳から、一筋の涙がこぼれた。


「大丈夫。わたしは、母様の想いをちゃんと背負ってる。もう一人じゃない。だから、進めるよ」


母の幻が微笑み、風に乗って消えていく。


《対象・シア=ファルネウス、同調率100%。認識調律完了》



《全員の調律完了。調律域通過準備を開始します》


艦内に再び光が満ちる。


誰もが、傷を抱えたまま——それでも「今」の自分を見つめ直し、立ち上がる準備を終えた。


そして、ラグナ・リリスは音もなく次元を超える。


その先にあるのは、最終階層ラスト・スパイラル


——いよいよ、物語の終着が近づいていた。

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モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

過去の2作品も、興味がありましたら覗いてやってください~。

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