第87話「静寂より来たる声」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《第零階層《無限回廊》の突破を確認。進路を再設定中……》
艦橋に響くエーリカの声。
その響きは、いつもより静かで、どこか慎重さを帯びていた。
「今、俺たちは……どこに向かってるんだ?」
悠真の問いに、エーリカは即答を避けた。
《現在地は特定不能領域《不可視領域A-Ω》。通常の次元軸を逸脱しています》
「不可視領域……?」
リオン=カーディアが眉をひそめ、傍らの操作卓を確認する。
しかし、そこに表示されるのは、座標すら存在しない「虚無」に等しいデータ群だった。
「ここは、通常の空間座標にない場所。第四階層と最終階層との“接続点”……違う、“隔絶領域”だ」
ゼイン=コードのつぶやきに、誰もが思わず言葉を飲む。
「つまり、次に向かうのは……最終階層?」
《正確には、最終階層へ至るための“調律域”です》
そう言ったのは、艦内に姿を現したエーリカのホログラムだった。
今まで以上に厳粛な装いをしており、ただならぬ事態を予感させる。
「調律域って……何を調律するんだ?」
エリンが静かに問う。
彼女は、かつて失った名前を取り戻しながらも、その“空白”に触れないまま、今なお皆と共に歩んでいた。
《この領域では、各個体の“因果共鳴度”を基準に、最終階層への適応性が調整されます》
「因果共鳴……ってことは、誰かが足りなければ……」
《排除される可能性もあります》
その言葉に、艦内の空気が凍りつく。
「それってつまり、最終階層には、全員が行けるとは限らないってことか……?」
シアが絞り出すように言葉を紡ぐ。
《はい。ただし、“調律”に成功すれば、排除は免れます》
「……その“調律”ってのは、具体的にどうすれば?」
リオンが問うたその時、艦内モニターに黒い円が浮かび上がった。
《各搭乗者の“最も深層にある記憶”を再現。自身と向き合う“鏡面儀式”を開始します》
次の瞬間、ラグナ・リリスの艦内が、まるで各人の心象風景で満たされたかのように歪んでいく。
悠真の目の前には、懐かしい釣り竿を持った父親の背中が見えた。
リオンの前には、かつて祖国を焼いた紅蓮の城が揺らめき、
ゼインは、自分の過去を知っている“かもしれない誰か”の幻影を見つめていた。
エリンは、自身の存在価値を問うような、誰もいない真白の世界に立っていた。
そして、シアは——
「この声……母様……?」
聞こえたのは、既にこの世にはいないはずの母の呼びかけだった。
◆
《この“鏡面儀式”に打ち勝ち、自己を肯定した者のみが、次の階層へと至る》
《制限時間:残り1200秒》
そして再び、無機質なカウントダウンが始まる。
だが、今回は誰かを犠牲にする試練ではない。
自分自身と向き合う——誰にも頼れない、“内なる戦い”だった。
(これは、俺たち全員が“ここに在る”意味を試される試練……)
悠真は拳を握りしめ、父の背中に向かって一歩を踏み出した。
艦内が静寂に包まれる中、それぞれの“心”の戦いが、静かに始まっていた——。
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