第86話「エーリカの微笑み」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
ラグナ・リリスの艦内は、静けさと安堵に満ちていた。
それは戦いの終息による休息というよりも、次なる一歩への“呼吸”のようなものだった。
――名付けられた世界、《アーセラム》。
観測座標が安定したことで、海も空も以前より澄んで見えた。
艦橋の中央、ホログラムが静かに浮かび上がる。
そこに現れたのは、かつてよりも柔らかな表情を見せる少女の姿だった。
《皆さん。改めまして、お帰りなさい》
そう語ったのは、ラグナ・リリスのAI――エーリカだった。
「……雰囲気、変わった?」
シア=ファルネウスが目を細める。
《はい。私自身も、この再構築を経て“再定義”されました。人格コアの許容範囲が拡張され、今の私は、皆さんの意志により近い“個”として存在しています》
リオン=カーディアが、少し首を傾げる。
「つまり……今までは“プログラム”寄りだったけど、今は“人間”に近くなってるってことか?」
《その通りです。もしくは、“皆さんの旅に寄り添う存在”に進化したと表現する方が正確かもしれません》
ゼイン=コードが、ふっと笑う。
「ずいぶん優しい喋り方になったな」
《それも、皆さんの選択の結果です。あなたたちは、数ある道の中で、拒絶ではなく“受容”を選んだ》
「“支払い”を乗り越えたから、だね」
エリン=グレイスの声は穏やかだった。
その手には、かつて自身の名を記した古い指輪があった。取り戻された記憶とともに、それは今や彼女自身の象徴となっていた。
エーリカは、彼女を見つめるように応えた。
《あなたが、名前を取り戻した時。私もまた、“私”であることを学びました。ありがとう、エリン》
「……ううん、こちらこそ。エーリカがいたから、私たちはここまで来られた」
言葉のやり取りに、しばし沈黙が降りた。
その後、艦内に静かに灯がともり、エーリカが語りかけた。
《次なる海域の探索プランを提案します。アーセラム外縁部にて、未接続の座標圏が複数観測されています。特に“深域”と呼ばれる階層は、かつて失われた文明の痕跡が残されています》
「深域か……潜る価値はありそうだな」
悠真が呟く。
「行こう。俺たちの旅は、まだ終わってない」
「それに……まだ回収してない“真実”がある」
ゼインが続けると、リオンも一歩前に出る。
「なら、行くしかないな。ラグナ・リリスで」
その名を口にした瞬間、艦が微かに振動した。
《エネルギー充填完了。再起動シークエンスを開始します。進行方向:深域ゾーン・コードネーム《ヴェルメリア》》
「……名前までついてるのかよ。ワクワクしてきた」
シアが、いたずらっぽく笑った。
エーリカのホログラムが、ふっと微笑んだように揺れる。
《さあ、冒険の続きを始めましょう》
それは、間違いなく“微笑み”だった。
機械ではなく、心のこもった、確かな“意志”の光。
ラグナ・リリスが静かに海中へと潜航を始める。
その軌道は、希望という名の深層へと続いていた。
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