第84話「記憶と引き換えの未来」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
選択肢に触れた瞬間、艦内に静かな光が満ちた。
重力すら曖昧になったかのような浮遊感の中で、ラグナ・リリスの船体は静かに変化していく。
艦の内壁に刻まれた紋章が淡く光り、内部の構造が自ら“再構築”を始めたのだ。
《選択を確認。“この世界の再構築に干渉し、観測者としてとどまる”》
エーリカの声には、どこか人間らしい――ほんの少しの安堵が混じっていた。
「……本当に、これでよかったのかな」
シア=ファルネウスが、モニターに映る自分の姿を見つめながらつぶやいた。
彼女の瞳は、どこか遠くを見ていた。
過去を手放す覚悟と、未来を受け入れる不安。
そのどちらも、彼女の胸の奥で共鳴していた。
「でも、選んだんだろ。俺たちは」
リオン=カーディアが小さく笑う。
だがその表情は、いつになく真剣だった。
「この世界に、ちゃんと意味があるなら……誰かがその意味を繋いでいかないと」
「それが、俺たちの役目ってわけか」
ゼイン=コードも、苦笑混じりに頷いた。
エーリカの制御下で新たな航行モードが起動し、ラグナ・リリスの艦体は空間の中心へとゆっくりと進む。
そこには、かつての“始まり”を封じた《根源の楔》と呼ばれる構造体があった。
《これより、“世界の再構築プロトコル”を発動します。艦内記憶データ、及び乗員の精神リンクを再統合します》
「精神リンク……?」
悠真が問いかける間もなく、艦内の空間がねじれ、
一人ひとりの脳裏に、膨大な“記憶”が流れ込んできた。
それは――ラグナ・リリスが旅してきた全航路。
戦った記録、別れた人々、交わした言葉。
そして、失ったものたちの、声。
「……これが、全部、俺たちの記憶……?」
シアが涙を浮かべる。
「いや……それだけじゃない。
これは、この世界で消えていったすべての“観測者”たちの想いだ」
リオンの言葉に、誰もが頷く。
彼らは今、選ばれたわけではない。
“繋がれた意思”そのものになったのだ。
《再構築開始。次元重合フィールド展開。新たな現実位相を定義します》
艦内が純白の光に包まれ、すべての境界が溶けていく。
時間、空間、言語、記憶――
あらゆる“秩序”が解体され、そして――
再び、形を成す。
悠真が最後に見たのは、誰かの手を取る自分の姿だった。
それが誰かは分からない。
だが、その温もりだけは、確かにそこにあった。
……
……
――そして。
「……ん、ここは……?」
目覚めた悠真の目に映ったのは、穏やかな波と、夕日に染まる水平線。
聞き覚えのある声が、背後から届く。
《おはようございます、艦長。お目覚めですね》
「エーリカ……?」
《いえ、正式には“再定義個体”のエーリカ=ユニット001です》
悠真はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。
そこには、エリンも、リオンも、ゼインも、シアもいた。
誰一人として記憶を語らなかったが、誰もが互いを“知っている”目で見ていた。
この世界は変わった。
だが、彼らの絆だけは――何も変わっていなかった。
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