第83話「門の向こう、すべての始まり」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
重厚な《真実の門》が、音もなくゆっくりと開いていく。
濃密な魔力が潮のように流れ出し、艦内の照明が一瞬だけ明滅した。
しかし、ラグナ・リリスの航行は止まらない。
艦橋に立つ悠真の目は、まっすぐに門の先を見据えていた。
「……ここが、最後の階層か」
《第零階層“真実の門”への到達を確認。艦内時計を停止します。物理法則の干渉により、通常時間軸からの乖離が発生します》
エーリカの冷静な音声が艦内に響いた。
「時間軸の乖離……つまり、こっから先は“常識”が通用しないってことか」
ゼイン=コードが肩をすくめるが、その口元に緊張は隠せない。
門の先に広がっていたのは、海でも空でもない、“色彩のない空間”だった。
上下の概念すら曖昧になり、あらゆる物質が輪郭を失い、漂うように浮かんでいる。
「……ここ、なんだか“世界の始まり”みたい」
シア=ファルネウスが、つぶやくように言った。
《この空間は、ラグナ・リリスに秘匿されていた記録と一致します》
「秘匿記録……?」
《はい。私が初期化直前に封印された最深記録。“この艦が生まれた理由”、および“第一設計者の目的”に関する情報です》
一同が息を呑む中、モニターに映像が浮かび上がった。
――かつて存在した、もうひとつの世界。
それは、悠真たちが元いた地球にも似ていたが、すでに文明の最終段階にあった。
超魔導技術と人工知能、種族融合の果てに構築された理想都市群。
だが、その均衡は“ある日”を境に崩壊する。
『――接触しました。“外部知性”です。思考形態、生命性、あらゆる概念において、我々の理解を超えています』
かつての人類が遭遇した、“異なる次元からの干渉者”。
その存在との接触が、文明を崩壊させ、滅びを早めた。
「……つまり、あの時代の人類は、“理解できない知性”に触れてしまった」
リオン=カーディアの声が低く落ちた。
《その接触によって、文明は分裂し、一部は“この世界”へと脱出を図りました。その際に建造されたのが、魔導潜水艦ラグナ・リリスです》
「……俺たちは、逃げてきた者の末裔……?」
悠真の言葉に、エーリカが応える。
《いいえ。あなたたちは“試すために選ばれた”存在です。》
その瞬間、艦内が静まり返った。
《あなたたちは、“異なる知性に適応しうるかどうか”を検証するために配置された観察対象です。元の世界からこの異界に送り込まれたのも、“選定プロセス”の一環でした》
「……俺たちの、意思とは無関係に……?」
シアが震える声で言った。
《はい。ですが、選定はすでに終了しています。あなたたちは、想定されたあらゆる結果を超えました》
「……つまり、ここまで来た俺たちに、もう“選ばれるかどうか”じゃなく、“選び取るかどうか”が問われるってことか」
悠真が静かに言った。
《その通りです。最終選択を、提示します》
モニターに、ふたつの選択肢が浮かぶ。
この世界の再構築に干渉し、“観測者”として永遠にこの地にとどまる
元の世界に戻り、すべてを忘れ、普通の人生をやり直す
誰もすぐには口を開かなかった。
それは“どちらが正しい”ではなく、
“自分にとっての真実”を選ばねばならない問いだったからだ。
リオンが、ゆっくりと拳を握った。
「俺は……もう、逃げるのはやめたい」
ゼインもまた、表情を引き締める。
「ここまで来て、何も知らずに終わるのは――ごめんだ」
悠真は、皆を見回し、うなずいた。
「じゃあ、選ぼう。俺たちの“未来”を」
そして、彼の指が、ひとつの選択肢に触れた――。
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