第82話「見えざる脅威」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
第三階層《犠牲の檻》を突破し、ラグナ・リリスは第四階層《忘却の海》へと足を踏み入れた。
そこは、あらゆるセンサーが誤作動を起こす不気味な深海だった。
濃密な魔力の霧が海中に満ち、外部カメラは常に霞み、航行にはエーリカの自動補正機能が必要不可欠となった。
《警告:第四階層“忘却の海”に進入。精神汚染率が上昇しています。過去情報の参照が困難になる恐れあり》
「……つまり、忘れるってことか」
艦橋に立つ悠真が、モニターに映る霧の波紋を見つめながらつぶやいた。
《はい。認識不能な記憶断絶、すなわち“個としてのアイデンティティの崩壊”が懸念されます》
「こっちはもう、充分にいろんなもんを忘れさせられてきたんだがな」
ゼイン=コードが自嘲気味に笑ったが、その表情には鋭さが残っていた。
彼は《犠牲の檻》で記憶の一部を手放してなお、仲間のために動くことを選び続けている。
それはただの責任感ではなく、この世界の真実に触れた者だけが持つ“戦う理由”だった。
◆
艦内では、シア=ファルネウスが記録端末を睨んでいた。
「これは……おかしい」
彼女は長く沈黙していたが、ふいに立ち上がった。
「航行記録が、微細に改ざんされてる。誰かが、ラグナ・リリスの通った経路を外部に送信してる可能性があるわ」
「なに!?」
リオン=カーディアが顔を強張らせた。
「つまり、誰かが裏切ってるってことか?」
「それだけじゃない。データのパターンが、“艦内の存在ではない何か”と一致してる」
「……何か?」
「“人”じゃない。“意志”に近い……けど、違う。もっと無機的で、冷たい……それでいて、私たちのことをずっと見ているような――」
彼女の言葉が途切れた瞬間、艦内灯が一斉に赤に染まり、警報が鳴り響いた。
《緊急警告:艦内に不明存在を感知。侵入経路は不明。全乗員は戦闘態勢を取ってください》
「まさか……忘却の霧の中に、何かが潜んでいた……!?」
悠真が立ち上がると同時に、空間が揺れた。
その瞬間、艦内モニターに“人型”の影が映し出された。
それは、どこかで見たような姿……だが思い出せない。
記憶の靄の中にある“誰か”の影。
「これは……俺の、知ってる……?」
リオン=カーディアが額を押さえる。
「違う。これは、俺たちの“記憶”を喰って……擬態してるんだ!」
「つまり“忘却の海”自体が、敵を生み出してる……!?」
戦慄が走った。
そして、艦の通路の一角。
淡く光る霧の中から、その“影”がゆっくりと歩み出す――
「武装展開! 全員、配置に!」
悠真の号令に、艦内は即座に臨戦態勢へと移行する。
だがこの敵は、単なる物理的な脅威ではなかった。
「記憶を……壊される……!」
シアが膝をついた。
影が近づくごとに、彼女の目が虚ろになっていく。
「ダメだ、こいつは……存在そのものが、“忘れさせる”ために作られてる……!」
悠真は叫ぶ。
「だったら、“想い”で抗うしかない!」
その叫びに、ゼインとリオンも応じた。
「覚えてるぞ……お前が泣いた顔も、笑った顔も! 絶対に忘れねえ!」
「俺の名前はリオン=カーディア! そして、ここにいるみんなが、俺の誇りだ!」
言葉が、光となって艦を包む。
その瞬間、影が立ち止まった。
《共鳴信号確認。認識妨害を解除します》
モニターに、不可解な文字列が浮かび上がった。
「“試練を突破せし者たちよ、第五階層《真実の門》へ至れ”……?」
◆
艦内の空気が、一変する。
忘却の霧が、まるで潮が引くようにゆっくりと晴れていく。
そしてその先に、荘厳な“門”が姿を現した。
「……いよいよか」
悠真は、拳を握った。
ラグナ・リリスは、ゆっくりとその門へ向かって進み始める。
“最終階層《真実の門》”――
そこには、彼らが長く追い求めてきた“核心”が待っていた。
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