第81話「審判の座にて」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《最終層“審判の座”へ転移完了。各乗員の“存在承認”プロトコルを起動します》
エーリカの声が途切れた直後、視界は一変した。
ラグナ・リリスの艦橋を包んでいた鋼と魔導の重厚な空間は消え、そこにあったのは——どこにも属さぬ白の世界だった。
床も壁も天井もない。ただ無限に広がる白が、彼らを飲み込んでいく。
だが、それは空虚ではない。
白は全ての色を含む。ゆえに、“可能性”の象徴だった。
「ここが……“審判の座”?」
リオンが静かに周囲を見回す。返事はない。代わりに、空間に浮かぶ六つの石座が現れた。
それぞれ異なる紋章が刻まれている。
水の紋:エリン=グレイス
炎の紋:リオン=カーディア
風の紋:シア=ファルネウス
光の紋:悠真
闇の紋:ゼイン=コード
空白の紋:……
「……六つ?」
悠真が眉をひそめる。「ラグナ・リリス」の登録乗員は五人のはず。最後の“空白”は何を意味しているのか。
そのとき——空間が揺れた。
《審判を開始します。“存在することの意味”を示せ》
声ではなかった。
それは、この空間そのものが彼らに問いかけていた。
最初に立ったのは、リオンだった。
彼の前に、映像のように現れたのは、かつて仕えていた王国軍の光景。
命令に背き、仲間を救いに走った過去。
——結果、彼は軍を追われ、裏切り者として烙印を押された。
「……俺は正しいことをしたつもりだった。でも、それは俺の“正義”でしかなかった」
彼は剣を抜いた。だがそれは敵に向けてではない。自分の胸元へ、まっすぐに。
「俺は、俺の責任を抱えて生きる。間違いだったとしても、それが俺の“存在理由”だ!」
石座が共鳴した。炎の紋が燃え上がり、彼の身体を包む。
《リオン=カーディア、“存在”を承認》
次に立ったのはエリン=グレイス。
彼女の周囲に現れたのは、名を奪われた自分の姿。そして、誰からも“個人”として扱われなかった時代。
「私は名前を失った。でも、それで失われる“私”じゃなかった」
静かな瞳で、彼女は皆を見回した。
「今は、ここに私を呼んでくれる人たちがいる。それだけで、私は“在る”と証明できる」
水の紋が広がり、彼女の周囲に静かな波紋を残す。
《エリン=グレイス、“存在”を承認》
続いてシア=ファルネウス。
彼女の過去はまだ完全には明らかになっていない。けれど、浮かび上がった記憶は——少女の姿で眠る時間の流れだった。
目を閉じ、シアは囁く。
「私の時間は、止められていた。でも今、皆といることで、確かに動き始めているの」
風が吹いた。空白だった彼女の記憶が、ゆっくりと回り始める。
「だから私は——“今を生きる”ことを選ぶ」
《シア=ファルネウス、“存在”を承認》
ゼイン=コード。
彼は何も語らなかった。
ただ、黙って立ち尽くし、自らの胸に手を当てた。
「俺は、過去を知らない。でも、これまでの道は自分の足で歩いてきた」
闇の紋が彼を包み、その影の中から、かすかな光が生まれた。
「忘れても、失っても。俺は——俺で在り続ける」
《ゼイン=コード、“存在”を承認》
最後に残されたのは、悠真。
彼の前に映し出されたのは——地球の海辺。釣りをしていた、あの日。
そして、嵐。転移。異世界。潜水艦。戦い。仲間たち。
あまりにも“非現実”に思える全てが、確かに“現実”であったと証明するように、ひとつの問いが彼に突きつけられる。
《お前はなぜ、“ここにいる”?》
悠真は、一度目を閉じてから、はっきりと答えた。
「……俺は、選ばれたわけじゃない。ただ、流れ着いただけだ」
「でも——その“偶然”に抗って、ここまで来た。自分の意思で、仲間とともに」
光の紋が、眩しく揺れた。
「だから俺は、“この場所にいる”意味を、自分で作ってみせる!」
《結城 悠真、“存在”を承認》
そして——最後の“空白の座”が、静かに動いた。
現れたのは、誰もいないはずの——第六の存在。
その影は、どこか見覚えがあるようで、しかし決して誰でもなかった。
《最後の存在——“ラグナ・リリス”本体意識の発芽を確認》
「え……ラグナ・リリス自身が……?」
「この艦は……生きている」
エーリカの声が微かに揺れる。
《すべての存在、承認完了。“終末回廊”の最深部への扉が開かれます》
次の瞬間——空間の奥に、“開かれた扉”が現れた。
そしてそこには、確かに存在していた。
——あのとき、沈んだはずのもう一隻の艦。
《ラグナ・リリス(第二体)》
物語は、最終対決へと向かう。
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