第8話「深淵の戦火と沈黙の記憶」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
「敵艦、急速接近中。深度—6900メルト、角度マイナス三度下方より接近!」
エーリカの声が緊迫する。
ラグナ・リリスは深淵海溝の縁を航行中だったが、その静寂は完全に破られた。
「真正面からじゃない……上昇斜線での奇襲か」
悠真はすぐに判断を下す。
「機体を右旋回15度、バリア出力最大、同時に浮上回避!」
艦が機敏に動く。
しかし次の瞬間——
《警告:前方側面より魔導波を感知。追撃が予測されます》
「……囮だったか!」
振動が艦を揺らす。
外殻に何かが当たったわけではない。
それは“重力をねじ曲げるような衝撃”だった。
《敵艦アーク・ネメシス、特殊魔導兵装“グラビタス・スパイン”を使用。艦周囲の重力場に直接干渉、我々の機動に制限を加えようとしています》
「やっかいな……こっちも、奴のデータ吸い出せないか?」
《現在解析中。ただし、アーク・ネメシスのAI構造は非常に似ています。……旧型のラグナ・リリスのデータが、彼らに組み込まれている可能性が高いです》
「つまりこっちの動きも……読まれてる」
その言葉に、エリンの顔色が変わる。
「じゃあ、普通の戦術じゃ絶対に勝てないってことよね」
「逆に言えば、“艦としてのセオリー”を外したら、相手は対応できないかもしれない」
悠真は艦内のMAPと兵装一覧を素早く確認し、ある一点に目を留めた。
「エーリカ、この艦には“偏向空間魚雷”ってあるよな? 通常空間を歪ませて、着弾位置をズラすやつ」
《はい、搭載済み。ただし命中精度が不安定で、艦内運用マニュアルでは“非常用”と記されています》
「……使う」
「えっ!? 本気!?」
「セオリー外の一撃で、不意を突く。向こうのAIがラグナの旧データで動いてるなら、“艦長の判断”は想定できてないはずだ」
悠真の言葉に、エリンは息を呑んだあと、小さく頷いた。
「わかったわ。……やるなら、徹底的に」
《偏向空間魚雷、目標予測座標に向けて発射準備中》
悠真は改めて艦内通信を開く。
「全乗員に告ぐ。これより、アーク・ネメシスとの第一種交戦に入る。相手の情報は未知数だが、我々には希望がある。それは“ここにいる全員が生きてる”ってことだ」
一瞬の静寂の後、ブリッジに控えるクルーたちの意志が一つに重なった。
「——発射!」
悠真の号令と共に、魚雷が放たれた。
空間が波打ち、視界が歪む。
数秒後、遠くで小さな爆発が起こる。
だが——
《命中確認ならず。……ですが、敵艦が反応。緊急浮上開始。予測進路、こちらの上部右舷へ》
「読んだ通りだ……!」
悠真はすかさず叫ぶ。
「迎撃用魔導榴弾“ディザスター・レイン”を全弾散布! そこに来る!」
エーリカが即座に応答。
《榴弾展開、敵艦航路に干渉開始》
数秒後——
画面の向こうで、アーク・ネメシスの艦体が見えた。
そしてその瞬間、榴弾が炸裂。
重力を歪める爆煙が周囲を包み、艦体の一部が露出する。
《命中確認! 敵艦、右舷後部に損傷!》
「今だ、接近!」
ラグナ・リリスが強引に進路を取り、敵艦の側面へと突進していく。
エリンが叫んだ。
「強行接舷!? この深度でそんなことしたら、こっちが先に潰れるわ!」
「でも、リアンを引きずり出せれば——この艦の秘密も、掴める!」
《艦首接舷まで10秒。9、8——》
そのときだった。
《……エリン、聞こえるか》
艦内放送に、またしても“あの声”が割り込んできた。
「え……私……?」
《君は“彼女”によく似ている。名前も、声も——。だが君は違う。……君は、どこまで彼の隣に立てる?》
エリンの瞳が揺れる。
そして、かすかに、目尻に涙が浮かんだ。
「違う……私は……私は……!」
悠真が振り返る。
「エリン! 大丈夫か!」
彼女は一瞬だけ目を閉じ、そして力強く頷いた。
「……大丈夫。私はここにいる。あなたの隣に」
その言葉を聞いて、悠真は再び前を向く。
「よし、接舷まであと——」
その瞬間、敵艦の姿が消えた。
魔導迷彩ではない。
艦そのものが、空間ごと“抜け落ちた”ように見えた。
《アーク・ネメシス、転移行動を確認。転移座標は……不明》
「逃げたか……」
静まり返る艦内に、深海の脈動だけが響いた。
「でも……少しだけ、見えたな。リアンと……そして、エリンの過去も」
エリンは黙って頷いた。
「ありがとう、悠真。……あなたがいてくれて、本当に良かった」
ふたりの間に、深海とは思えないほどの温かさが生まれていた。
——そして、ラグナ・リリスは再び静かに進む。
次なる真実と、因縁の残響へ向けて。
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