表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/110

第8話「深淵の戦火と沈黙の記憶」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

「敵艦、急速接近中。深度—6900メルト、角度マイナス三度下方より接近!」


エーリカの声が緊迫する。

ラグナ・リリスは深淵海溝の縁を航行中だったが、その静寂は完全に破られた。


「真正面からじゃない……上昇斜線での奇襲か」


悠真はすぐに判断を下す。


「機体を右旋回15度、バリア出力最大、同時に浮上回避!」


艦が機敏に動く。

しかし次の瞬間——


《警告:前方側面より魔導波を感知。追撃が予測されます》


「……囮だったか!」


振動が艦を揺らす。

外殻に何かが当たったわけではない。

それは“重力をねじ曲げるような衝撃”だった。


《敵艦アーク・ネメシス、特殊魔導兵装“グラビタス・スパイン”を使用。艦周囲の重力場に直接干渉、我々の機動に制限を加えようとしています》


「やっかいな……こっちも、奴のデータ吸い出せないか?」


《現在解析中。ただし、アーク・ネメシスのAI構造は非常に似ています。……旧型のラグナ・リリスのデータが、彼らに組み込まれている可能性が高いです》


「つまりこっちの動きも……読まれてる」


その言葉に、エリンの顔色が変わる。


「じゃあ、普通の戦術じゃ絶対に勝てないってことよね」


「逆に言えば、“艦としてのセオリー”を外したら、相手は対応できないかもしれない」


悠真は艦内のMAPと兵装一覧を素早く確認し、ある一点に目を留めた。


「エーリカ、この艦には“偏向空間魚雷”ってあるよな? 通常空間を歪ませて、着弾位置をズラすやつ」


《はい、搭載済み。ただし命中精度が不安定で、艦内運用マニュアルでは“非常用”と記されています》


「……使う」


「えっ!? 本気!?」


「セオリー外の一撃で、不意を突く。向こうのAIがラグナの旧データで動いてるなら、“艦長の判断”は想定できてないはずだ」


悠真の言葉に、エリンは息を呑んだあと、小さく頷いた。


「わかったわ。……やるなら、徹底的に」


《偏向空間魚雷、目標予測座標に向けて発射準備中》


悠真は改めて艦内通信を開く。


「全乗員に告ぐ。これより、アーク・ネメシスとの第一種交戦に入る。相手の情報は未知数だが、我々には希望がある。それは“ここにいる全員が生きてる”ってことだ」


一瞬の静寂の後、ブリッジに控えるクルーたちの意志が一つに重なった。


「——発射!」


悠真の号令と共に、魚雷が放たれた。

空間が波打ち、視界が歪む。

数秒後、遠くで小さな爆発が起こる。


だが——


《命中確認ならず。……ですが、敵艦が反応。緊急浮上開始。予測進路、こちらの上部右舷へ》


「読んだ通りだ……!」


悠真はすかさず叫ぶ。


「迎撃用魔導榴弾“ディザスター・レイン”を全弾散布! そこに来る!」


エーリカが即座に応答。


《榴弾展開、敵艦航路に干渉開始》


数秒後——


画面の向こうで、アーク・ネメシスの艦体が見えた。

そしてその瞬間、榴弾が炸裂。

重力を歪める爆煙が周囲を包み、艦体の一部が露出する。


《命中確認! 敵艦、右舷後部に損傷!》


「今だ、接近!」


ラグナ・リリスが強引に進路を取り、敵艦の側面へと突進していく。

エリンが叫んだ。


「強行接舷!? この深度でそんなことしたら、こっちが先に潰れるわ!」


「でも、リアンを引きずり出せれば——この艦の秘密も、掴める!」


《艦首接舷まで10秒。9、8——》


そのときだった。


《……エリン、聞こえるか》


艦内放送に、またしても“あの声”が割り込んできた。


「え……私……?」


《君は“彼女”によく似ている。名前も、声も——。だが君は違う。……君は、どこまで彼の隣に立てる?》


エリンの瞳が揺れる。

そして、かすかに、目尻に涙が浮かんだ。


「違う……私は……私は……!」


悠真が振り返る。


「エリン! 大丈夫か!」


彼女は一瞬だけ目を閉じ、そして力強く頷いた。


「……大丈夫。私はここにいる。あなたの隣に」


その言葉を聞いて、悠真は再び前を向く。


「よし、接舷まであと——」


その瞬間、敵艦の姿が消えた。

魔導迷彩ではない。

艦そのものが、空間ごと“抜け落ちた”ように見えた。


《アーク・ネメシス、転移行動を確認。転移座標は……不明》


「逃げたか……」


静まり返る艦内に、深海の脈動だけが響いた。


「でも……少しだけ、見えたな。リアンと……そして、エリンの過去も」


エリンは黙って頷いた。


「ありがとう、悠真。……あなたがいてくれて、本当に良かった」


ふたりの間に、深海とは思えないほどの温かさが生まれていた。


——そして、ラグナ・リリスは再び静かに進む。


次なる真実と、因縁の残響へ向けて。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

過去の2作品も、興味がありましたら覗いてやってください~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ