第78話「崩壊前夜の残響」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
第三階層《犠牲の檻》の深部——そこは、音も光も吸い込まれるかのような無音の空間だった。
ラグナ・リリスが静かに滑るように進むたび、周囲に浮かぶ“檻”の構造が変化し、まるで見えない誰かの意志が艦の行く末を監視しているかのようだった。
《警告:次の通過領域は“存在の概念律”に干渉されます。記憶、人格、時間軸の一部が揺らぐ可能性があります》
艦橋に響いたエーリカの警告に、悠真は眉をひそめた。
「“概念律”って、ただの魔導理論じゃないのか?」
《本来は観測に干渉しないはずの次元法則です。しかしこの領域では、誰かがそれを意図的に“裁定の力”として利用している可能性があります》
「まるで……神のような振る舞いだな」
そう呟いたのは、リオンだった。
彼の顔は穏やかで、だがその目は、どこか遠くを見つめていた。
「“犠牲の意味”を突きつける存在がいるってことだ。ここは、たぶん俺たちを試してるだけじゃない。選別してる」
エリンは言葉を飲み込み、艦内にそっと視線を巡らせる。
誰かがまた消えるかもしれないという不安が、確実に皆の胸を締め付けていた。
だが、その重苦しい空気を破ったのは——
「ごめんなさい、みんな」
シアだった。
彼女は艦橋の中央に立ち、どこか儚げな微笑を浮かべていた。
「ずっと言えなかったけど……私は、この階層の“鍵”を持ってる。たぶん、私がいれば、次の扉は開く」
「なに……?」
悠真が驚いて声を上げると、シアは少しだけ目を伏せた。
「この空間には、“過去に犠牲を強いられた者”の残滓が漂っている。私はその中にいた。ここに引き寄せられたのは……きっと偶然じゃない」
リオンが一歩前に出た。
「……記憶の空白の理由、ここで答え合わせってわけか?」
「ええ。私も、本当は覚えてる。“あの時”、私の家族は選ばれたの。犠牲として。でも、私だけが残った」
その告白に、エリンが小さく息を呑む。
「でも、どうして黙ってたの?」
「怖かったの。もし、私がまた“選ばれる側”だったらって。今度こそ全部を失うんじゃないかって……」
《確認:対象“シア=ファルネウス”は、第三階層《犠牲の檻》と高位因果的関連性を保持。扉へのアクセス権限——確認》
エーリカの声が重く響く。
「行かせるわけにはいかない!」
悠真が叫んだ。
「何度も、誰かを犠牲にしてきた。そのたびに、取り戻すって誓ったのに……!」
「……ありがとう、悠真くん」
シアの声は、どこまでも優しかった。
「でも、これは私自身が選んだ“答え”なの。ここで逃げたら、私は本当に何者でもなくなる。だから——」
彼女は、扉の前に立つ。
「“私の存在”を、鍵として捧げます」
《承認。扉が開かれます》
そして次の瞬間、光と闇が交錯するようにして、巨大な空間が眼前に広がる。
だが、その扉の向こうにシアの姿はなかった。
残されたのは、彼女が手にしていた小さなペンダント——そして、その温もりの記憶だけだった。
◆
「彼女は……?」
リオンが呟く。
誰も、言葉を返せなかった。
だが悠真は、静かに前を見据え、拳を握る。
「必ず、取り戻す。彼女の意思も、名前も、全部……絶対に、忘れない」
艦は静かに進む。
《犠牲の檻》を越え、次なる試練《忘却の霧》へ——
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