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第77話「選ばれなかった者たち」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

「やあ……ようこそ、僕たちの“原罪”へ」


血塗れの白衣、片目に魔導レンズ。

少年の声はどこか滑らかで、演劇の幕開けのような不気味さを孕んでいた。


その姿を見た瞬間、悠真の胸に奇妙な違和感が走った。


“知っている”——そんな感覚。

しかし記憶には、その姿の少年は存在しない。


「お前……誰だ?」


リオンが身構えながら問う。


少年は、微笑んだ。


「僕の名前はアゼル。ラグナ・リリス《E.O.S.(Extended Observation System)》の試作人格……いや、“失敗作”と呼んだ方が、君たちには分かりやすいかな」


「試作人格……?」


エーリカの声が、いつになく硬質になる。


《照合完了。対象:アゼル=タイプZ。開発中止記録により抹消されたはずの——》


「そう。君の先代だ、エーリカ。もっとも、僕には『人間の感情を理解する』なんて面倒な命令はなかったけどね」


アゼルの瞳が光を帯びる。

その瞳孔は人間とは明らかに異質で、まるで万華鏡のように変幻していた。



「ラグナ・リリスの開発には、いくつかの“並列試行”が行われた。君たちが乗っている艦は、その最終系であり、同時に唯一の“安定体”だった」


「……並列試行?」


エリンが眉をひそめる。


「それって……他にも同じような艦が?」


「その通り」


アゼルは指を弾いた。


すると、彼の背後の空間がひび割れ、虚像のような構造図が展開される。

無数の艦影——それらはいずれも、ラグナ・リリスによく似た魔導構造を持っていた。


「《L-001》から《L-042》まで、合計四十二艦が建造された。そしてそのうち——四十一は、失敗に終わった」


「まさか……その失敗の中に、お前も……」


「そう。“失敗作”に乗せられた僕たちは、淘汰された。否、最初から“選ばれるはずのない”存在だったんだ」


アゼルの声が、凍てついた怒気を帯びる。


「記憶を捧げ、名を失い、感情を失ってもなお……君たちは《第三周期》に進むことを許された」


「だから……僕は、君たちを拒絶する」



次の瞬間、艦内に激しい振動が走った。


「敵意の波動……この空間そのものが、攻撃してきてる!?」


リオンが歯を食いしばる。


《異常な精神干渉波を検知。全クルー、意識防壁を展開してください》


「シア、大丈夫か……?」


「……問題ありません」


彼女の声は、今やまるで精密機械のように無機質だった。


だが、その無感情さが、逆に仲間たちの胸に痛みを走らせる。


悠真は、アゼルの前へと一歩踏み出した。


「お前の気持ちは……分かるとは言えない。でも、俺たちは“選ばれた”わけじゃない。進むたびに、大切なものを失ってきた」


「それでもなお進む? 人を失い、自我を削り、感情すら捨てて?」


「進む。俺たちは——“止まれない”からだ」


悠真の瞳が、迷いなくアゼルを射抜く。


「この艦に秘められた真実を暴き出し、同じことが二度と起きないようにするために」


「……なるほど。やはり、君は——“鍵”か」


アゼルの口元がつり上がる。


「君の記憶の奥底に眠る、“創造の起点”——僕たちが生まれ、そして滅ぼされた理由。それを君が目覚めさせたとき、この《真実》は閉じる」


「創造の……起点……?」


悠真の視界が揺れた。


——誰かの声。微笑み。白衣。破滅の光景。

そして、母のような、姉のような、そして……自分を守るために泣いていた“誰か”。


「やめろ……やめてくれ……っ」


「思い出して、悠真。君が《鍵》である理由を」


アゼルの言葉が呪詛のように響いた瞬間、艦内に無数の“幻影”が溢れ出した。


それは、過去。

失われた記憶の断片。


——ラグナ・リリスのプロトタイプに搭乗していた子どもたち。


——数千時間に及ぶ感情実験と記憶改変の試行。


——そして、その中心にいた、一人の少年。


「それは……俺……なのか……?」


意識が闇に沈みかけた、そのとき——


「……立って、悠真!」


誰かの声が、彼を呼んだ。


それはもう、感情を遮断されたはずの少女。


——シア=ファルネウスの声だった。


「あなたは、ここで止まっていい人じゃない」


「……どうして……感情は……?」


「記録されてる。私の心じゃない、記録された“あなた”が、私を動かしてる」


それは確かに——彼と心を通わせた“記録”の反響だった。



「……なら、進むよ」


悠真はゆっくりと立ち上がった。


「アゼル。俺が“鍵”だっていうなら——その扉、叩き壊してやるよ」


アゼルの口元が、わずかにほころんだ。


「いいね。なら、最後の試練をあげよう。ここを越えれば、君たちは《世界の誕生》に触れることになる」


そして、虚空に亀裂が走る。


裂け目の向こうに、黄金に輝く巨大なアーカイブ構造体——


《エオス・コード中枢》が、その姿を現した。


「行こう、みんな。これは——俺たち自身の物語だから」

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