第76話「白銀の選択」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《支払い申請を受理。詳細確認中……》
ラグナ・リリス艦内の空気は、一瞬にして張り詰めたものへと変わった。
艦橋に立つシア=ファルネウスは、顔色ひとつ変えず、じっと前を見据えている。
蒼銀の髪が揺れる。機械音が脈打つたび、彼女の中にある決意が、無言の圧となって艦橋を包み込んでいた。
《確認完了。シア=ファルネウス、支払い候補として承認》
《対象項目:感情共有領域の遮断。以後、他者とのエンパシー接続が不可能となります》
「……感情の遮断?」
エリンが小さくつぶやく。
「それって、つまり……誰かと心を通わせることができなくなるってこと……?」
《その通りです。対象の感情共有機能は、過去の記憶に関連する“情動トリガー”も含めて完全に封鎖されます》
「シア、そんなの……それじゃあ……君が、君でなくなる」
悠真の声は、どこか震えていた。
リオンも言葉を失い、ただシアを見つめる。
だが彼女は静かに、首を振った。
「私は……この艦に来るまで、ずっと“孤独”だった。でも、ここで出会ったみんなと過ごすうちに、“誰かと心を通わせる”ことの重みを、知ったの」
「だったらなおさら、そんな代償を——!」
「だからこそ、払うの」
シアはゆっくりと悠真を見つめた。
「もし、これ以上の支払いを誰かに強いるなら、私のこの感情も、絆も、全部……無意味になる」
彼女の言葉は静かだったが、その芯は鋼よりも強く、誰も口を挟めなかった。
《最終確認:シア=ファルネウス、支払い対象を承認しますか?》
「はい。これが、私の選択です」
◆
淡い光が彼女を包み、次の瞬間——
その瞳から、微細な揺らぎが消えた。
まるで、感情という“色”を塗りつぶされたように。
無機質な静けさが、シアの中に広がっていた。
「……終わりました」
いつも通りの口調。だが、そこにあったはずの微笑みも、戸惑いも、何もない。
エリンが恐る恐る近づいたが、シアはまっすぐに見返すだけで、何の反応も示さない。
「……シア……?」
「はい。必要があれば、作戦行動に戻れます」
完全な遮断。だが、彼女の意思で選ばれたこと。
それが、なおさら痛みを増していた。
◆
静まり返った艦橋に、エリカの声が再び響いた。
《第四周期、支払い完了。次の遷移準備に入ります》
「……なあ、もうやめよう。こんなの……おかしいだろ」
リオンが、低くつぶやいた。
「進むために、何かを失い続けるなんて……そんなの、“勝ち”じゃない」
「それでも、行かなきゃならない場所があるんだ」
悠真の声もまた、静かだった。
「この艦に隠された真実……この世界の成り立ち……何より、こんな選択を“強いる何か”を止めない限り、終わらない」
リオンは言い返せなかった。
それは事実だった。
だがその“事実”は、あまりにも残酷すぎる。
◆
艦が深層回廊へと再び潜行する。
終末回廊、第五通路《真実》——その核心へ。
そしてその先で、待ち受けるのは——
――彼らがいま、もっとも見たくなかった“過去の姿”。
《アクセス開始:記録サブ層・コア領域——アーカイブ・エオス》
エリカの声が告げたその言葉に、全員の目がわずかに見開かれた。
「アーカイブ・エオス……?」
「それって……記録の、根幹……?」
だが次の瞬間。
艦内に、微かな音が響いた。
ポタ……ポタ……。
液体の落ちる音——血のような、涙のような、それでいてどこか、記憶を滴らせるような。
そして、そこに現れたのは——
「やあ……ようこそ、僕たちの“原罪”へ」
血塗れの白衣をまとい、片目に魔導レンズをつけた“少年”が立っていた。
「君たちが何を失おうと、辿り着くことはできないよ。だって君たちは、選ばれなかったのだから」
——第五通路《真実》。ついに開かれる、最も忌まわしき真相。
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