第75話「記憶なき再会」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《第三周期の支払い対象を選択してください》
無機質な声が、艦内に冷たく響いた。ラグナ・リリスの制御中枢では、誰もが言葉を失い、張り詰めた緊張が空気を支配していた。
すでに、リオンは過去五年間の記憶を失い、エリンはこの世界から名前という“存在の拠り所”を奪われていた。
それでも、彼らは進み続けている。代償を払うたびに、ひび割れていく絆。それでも前に進むしかない。止まれば、この先の“真実”にはたどり着けないのだから。
「……次は、俺が行く」
静かにそう告げたのは、リオンだった。
「やめろ、リオン。もう十分だ。お前はすでに……!」
悠真が声を荒げるが、リオンは小さく首を横に振る。
「俺は、まだ何も守れていない。……だったらせめて、これくらいは払わせてくれ。誰かが進むための礎になるなら、俺の手の中のものなんて、惜しくない」
《確認:リオン=クレイン、支払い候補として申請》
《対象項目:身体記憶の一部——戦術的判断能力および対人戦闘経験の喪失》
「リオン、それは……戦えなくなるってことだ。もし次に何かあったら……!」
「わかってる。だけど俺は、それでも——ただの“剣”としてじゃなく、“人間”として生きたい」
その眼差しは静かで、だがどこまでも強かった。
《再確認:リオン=カーディア、支払い対象を承認しますか?》
リオンは短く息を吐き、うなずいた。
《支払い承認》
淡い光がリオンを包み、数秒後、彼の身体がふらついた。
「リオン、大丈夫か!?」
「……平気だ。けど……あれ……? 俺、今までどうやって戦ってたんだ……?」
その仕草からは、かつての鋭い間合いも、一撃で仕留める気配も、跡形もなく消えていた。
「これで……ようやく、少しは前を向ける気がする」
誰も、その言葉に反論できなかった。ただ、切なさだけが、艦内にゆっくりと滲み始めていた。
◆
《残り時間:480秒。第四周期への移行準備中》
次の周期が迫る中、ラグナ・リリスは再び静かに動き出す。
だがそのとき——
「待って」
艦橋の扉が開き、ふらついた足取りで、一人の少女が姿を現した。
「……誰、だ?」
悠真が思わず問いかける。どこかで見た気がするのに、その名前が、出てこない。
少女は、微笑みながら言った。
「私は……たしかにここにいる。“名前”がなくても、ここに来た理由は忘れてない」
——エリン。
彼女は名前を失ってもなお、再び仲間の元へと戻ってきた。
リオンは、その姿に目を見開いた。
「……君……もしかして……」
「うん。私も、あなたに会ったことがある気がするの。なんだか、懐かしいのよ……とても」
記憶はなくても、名は消えても。想いだけが確かにそこにある。
その穏やかな空気に、艦橋に漂っていた痛みが、わずかに和らいだ。
◆
《第四周期、支払い対象の選択を開始してください》
アナウンスが再び告げる。新たな“代償”の時間が迫る。
その瞬間——
「その役、今回は私が引き受けるわ」
凛とした声と共に、艦橋の扉が再び開いた。
「……シア!」
現れたのは、シア=ファルネウス。蒼銀の瞳に強い決意を宿し、迷いなく悠真の隣に立つ。
「私には、まだ払えるものがある。誰かが壊れる前に、私が選ぶ」
《支払い申請を受理。詳細確認中……》
その声と共に、艦は再び静かに進み出す。
向かう先は、まだ見ぬ“終点”か、それとも——
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!
過去の2作品も、興味がありましたら覗いてやってください~。




