第74話「第三階層《犠牲の檻》」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
転移が完了した直後、ラグナ・リリスを包む空間が突如として激しく揺れた。
艦内照明が数度明滅し、艦橋に緊急警報が響き渡る。
《警告:第三階層《犠牲の檻》に到達。因果干渉フィールドが不安定です。存在情報の“対価”が要求されます》
「……“存在情報の対価”? どういう意味だ、エーリカ」
悠真が問いかけると、エーリカの表情が一瞬だけ曇った。
《この階層では、ラグナ・リリスおよび搭乗者一名の存在情報が、一定時間ごとに“支払われる”契約状態となります》
「存在情報って……まさか、記憶や身体の一部……?」
《該当する可能性が高いです》
艦内モニターに表示された映像は、異様だった。
ラグナ・リリスは、無数の黒い“檻”に囲まれた空間に浮かんでいた。
それぞれの檻には、見知った顔、知らぬ顔、誰かの記憶の断片のような“犠牲者”が収められている。
その姿はまるで、生贄を封じ込めた記録媒体のようだった。
「……これは試練じゃない。罰だ」
ゼインの声が静かに響く。
「ここは、“誰かを犠牲にしてでも進む”者だけが通れる領域……そうだろ?」
エリンが艦内を見渡しながら、唇を噛みしめた。
《選択を要求します。第一周期の支払い対象を“選択”してください》
画面に映し出されたのは、艦内メンバーの名前一覧だった。
「……ふざけんな」
悠真が立ち上がり、怒りを押し殺した声で言った。
「誰かを犠牲にしろって? そんなもの、選べるわけないだろ……!」
しかし、時間は刻一刻と迫っていた。
《カウントダウン開始:残り89秒》
「待て、俺に案がある」
ゼインが前に出た。
「この階層の“契約”ってのは、“支払い”があれば維持できるって意味だろ。だったら、俺が支払う。俺の記憶をくれてやれ」
「やめろゼイン、それ以上……!」
「平気だ。俺はもう、いくつか失ってる。今さらひとつやふたつ増えても、何とかなる」
彼の目は冗談めかしていたが、その奥にある決意は本物だった。
《確認:ゼイン=コードによる存在情報の支払い。項目:過去五年間の記憶……承認》
その瞬間、ゼインの身体が淡い光に包まれ、モニターから彼の名前が一時的に消えた。
「ゼイン……!」
「大丈夫さ。ただ、名前を忘れそうになっただけだ」
彼は笑って見せたが、どこか痛々しい空白が、彼の言葉の端々に漂っていた。
◆
ラグナ・リリスは、第一周期の犠牲をもって、《犠牲の檻》の中心部に向けて進み始める。
艦内に、静かな沈黙が訪れる。
誰もが思っていた。
次は自分が、その“支払い”を求められるかもしれないと。
そして、次の周期が迫る——
《残り時間:360秒。次の支払い対象を選択してください》
緊張が張りつめる中、今度はエリンが一歩前に出た。
「次は、私が払う番ね」
「ダメだ、エリン!」
「違うの、悠真」
エリンは、優しく微笑んでいた。
「ずっと怖かった。でも、ここで逃げたら……私は、本当に“何も残せない人”になってしまう」
その声には、覚悟と、それ以上に強い“意志”が込められていた。
「だから、払うのは“私の名前”。……この世界から“エリン・グレイス”という名を、一時的に消してちょうだい」
《確認:エリン・グレイスの存在名称、支払い対象に指定……承認》
その瞬間、艦内の名簿から彼女の名前が消え、誰も彼女の名前を口にできなくなった。
「えっと……今の、彼女は……?」
「……わからない。でも、絶対に……思い出す。何があっても」
悠真は拳を握りしめ、前を見据えた。
◆
そして、ラグナ・リリスは第二周期を突破し、なおも《犠牲の檻》の深奥へと進んでいく。
犠牲を強いられる階層。
だが、それでも彼らは進む。
誰も取り残さないために——
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