第73話「第二階層《祈りの球殻》」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
転移が完了すると、ラグナ・リリスの艦内モニターには、まるで光に包まれた水中のような世界が映し出されていた。
無数の球体が浮遊し、それぞれの内部には、祈りを捧げるように目を閉じた人々の幻影が揺らめいている。
《第二階層、識別名《祈りの球殻》。各球体は“祈り”の記録媒体。外部の観測者により、個別干渉が可能です》
「……“祈り”? まるで記憶みたいだな」
悠真が呟くと、ゼインがモニターをじっと見つめて言った。
「いや……これは“未来”だ。誰かが望んだ、まだ起きていない願いの記録だと思う」
「未来の記録?」
「祈りってのは、過去じゃなくて、これからに向けたものだからな。たとえ叶わなくても……人は祈らずにいられない」
その言葉に、シアが小さく眉をひそめた。
「じゃあ、それが“観測”されたらどうなるの? 祈りが“確定”されるってこと……?」
エーリカが冷静に答える。
《はい。いずれかの球体を選択し、観測を完了させた場合、その“祈り”は“現実との因果接続”を得る可能性があります》
「可能性……?」
《ですが、祈りの内容によっては、世界の因果律を乱す“排他反応”が発生するリスクがあります》
「……つまり、どの祈りを選ぶかで、この先の世界に影響を及ぼすってことか」
◆
球体のひとつが、ふわりと艦に近づいた。
中には——まだ見ぬ少女が描かれていた。
長い銀髪、うつむき、祈るように手を組んだその姿は、どこかエリンに似ていた。
そして——
《祈り:彼女が、絶対に“孤独になりませんように”》
シアが思わず息をのむ。
「それって……」
「……この祈りを叶えたら、誰かが彼女と強制的に“つながり続ける”ことになるかもしれない。たとえその相手が、本当は望んでいなくても」
「強制された絆……それって、もう“祈り”じゃないわよ」
他の球体にも目を向ける。
誰かを救う願い、失った人を蘇らせたいという願い、自分だけが永遠に生き続けたいという祈り——
美しいものも、歪んだものも、すべてが平等に浮かんでいた。
「選ぶしかないんだな。この中から、一つを」
「……違うよ、悠真」
ゼインが静かに口を開く。
「俺たちは、“正しい祈り”を選ぶんじゃない。“覚悟を持てる祈り”を選ぶんだ」
その瞬間、ラグナ・リリスの周囲に淡い光が灯り、一つの球体が悠然と近づいてくる。
その中には——
炎に包まれたラグナ・リリス。そして、誰もいない艦橋。
《祈り:彼らが、“最後まで”共にいられますように》
悠真が息を呑む。
誰がその祈りを捧げたのかはわからない。
だが、そこには確かな“恐れ”と“希望”が込められていた。
「これにする」
「……いいの?」
「恐いよ。でも、俺たちは旅を続けてきた。何度も選んできた。そして、これからも選び続ける」
悠真の声が、静かに空間に響いた。
「なら、最後まで。俺たちは——“共に”でいよう」
エーリカが祈りの球体に干渉を行い、その瞬間、艦体が新たな光に包まれる。
◆
転移の準備が整った艦橋に、シアがぽつりと呟いた。
「“祈り”って、本当は誰かの“弱さ”かもしれない。でも……それを認め合えるなら、強さにもなる」
「……ああ。だから、俺たちは祈るんだ」
そして——
ラグナ・リリスは、第三階層《犠牲の檻》へと向けて、次元の狭間へとその身を沈めていった。
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