第7話「エリュシオン海溝への航海と影潜む魔導艦」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
ラグナ・リリスの船体が、静かに深海へと沈んでいく。
悠真は司令室の主席に座り、初めて“艦長席”としての重みを感じていた。
《現在、セレディア湾より南方1,200キロ、エリュシオン海溝への航行を開始します》
エーリカの冷静な声が艦内に響く。
だがその言葉の裏に、警戒の色が滲んでいた。
「……未確認艦影の追跡状況は?」
《敵艦と思われる魔導艦の航跡を継続検出中。進路は我々と同一方向。距離およそ230キロ先行》
「まるで……案内してるみたいね」
エリンが不安げに呟く。
ヴァルトの言葉が脳裏に蘇る——“第二の艦”。
「AI、その艦の出力データは?」
《断片的ながら検出。推定全長180メルト、ラグナ・リリスよりやや小型。だが……魔力出力は、我々と同等》
「同等……? それってつまり——」
《同型艦、もしくは後継機の可能性が高いです》
「なるほど。まるで影がこちらを誘ってるみたいだな」
悠真は息を整え、ハンドルに手をかける。
「進行方向維持。追跡を継続する。必要があれば、こちらから先に動く」
その時、艦内の通信回線に不自然な混線が走った。
エーリカの声が一瞬だけ揺らぎ、別の声が割り込んでくる。
《——きこえるか、ラグナ・リリス》
低く、しかしはっきりとした男の声。
《“観測者”よ。お前たちは我らが門を開いた。ならば……“裁きの海”へと至れ》
「……!」
エリンが震える声で呟いた。
「いまの、誰……?」
「通信源は!?」
《……特定不能。だが……艦内の一部システムに、外部からの魔導干渉が確認されました》
「ハッキング……みたいなものか?」
《はい。極めて高度な古代言語の魔導構文が使用されています》
悠真は立ち上がり、司令室のスクリーンに浮かび上がる海底マップを凝視した。
「座標に到達する前に、何かが仕掛けてくる気がするな……」
「それでも、行くのよね?」
エリンが問いかける。
「ああ。止まったら、きっとこの先にある“真実”は消えてしまう気がする」
ふたりは目を合わせ、小さく頷き合った。
数時間後——
ラグナ・リリスは、ついにエリュシオン海溝の縁へ到達した。
目の前に広がるのは、黒に染まりきった闇。
海底の亀裂はまるで巨大な裂け目のように地平を貫いており、そこから微かに発せられる魔力の鼓動が、艦の装甲すら震わせていた。
《深度限界に近づいています。これより潜航モードを“深淵対応仕様”に切り替えます》
艦体が変形し、魔力を集中して耐圧構造を強化していく。
その過程で艦内の照明が落ち、わずかな赤い光だけが残された。
「まるで……棺桶の中みたいね」
エリンの言葉に、悠真は小さく笑った。
「でも、動いてる。まだ……俺たちは、生きてる」
その瞬間——
《警告:前方より魔導砲による狙撃波を検知! 回避行動を!》
「ちっ、やっぱりきたか!」
悠真は咄嗟に指示を飛ばす。
「緊急回避! 機体を左旋回10度! 同時に迎撃魔導弾発射!」
艦が傾き、衝撃と共に魔導弾が放たれる。
前方の暗闇で、一瞬だけ光が閃いた——敵艦の影が、はっきりと姿を見せた。
《識別成功——艦名:アーク・ネメシス。魔導潜水艦。未登録艦。》
「アーク・ネメシス……」
《接続要求あり。通信を開きます》
「……応答しろ。こちら、ラグナ・リリス艦長・悠真。所属不明艦、目的を明かせ」
数秒の沈黙ののち、通信が開いた。
《やはり……君が“ラグナの継承者”か》
画面に現れたのは、銀髪の少年だった。
歳は悠真と同じくらいに見えるが、どこか人間離れした冷たい気配を纏っていた。
《僕はリアン。アーク・ネメシスの管理者。そして——“正統の艦長”だ》
「正統……?」
リアンは感情を見せずに告げた。
《君は選ばれし者ではない。ただの“乱数”。この世界に再び災いを招く存在だ》
「……!」
悠真は、静かに怒りを抑えながら言った。
「それが君の判断なら、俺はそれを覆すまでだ。——この艦と共に」
リアンは僅かに微笑んだ。
《ならば、試すといい。この“深淵”で、君がどれほどの存在かを》
次の瞬間、通信は遮断され、敵艦が完全に姿を消す。
《敵艦、再びステルスモードに移行。攻撃態勢に入る可能性あり》
「この海域での戦闘か……だったら、受けて立つ」
悠真は前を見据えた。
「エリン、艦内全セクションに戦闘配置を伝えてくれ」
「了解。……でも、無茶はしないで」
「しないよ。……君が、隣にいてくれる限りはな」
エリンが一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに小さく笑った。
「じゃあ、安心して戦えるわね」
“深淵”の闇に、ふたつの影が交差しようとしていた。
ラグナ・リリス vs アーク・ネメシス——
最初の戦火が、いま灯ろうとしていた。
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