第64話「記録干渉:過去の亡霊たち」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《最終観測戦:第2段階──開始》
——全記録照合。
対象個体へ観測干渉開始。
精神軸・記憶領域・選択分岐へアクセス完了。
対象は「自己」を定義できるか。
答えよ。
■
「……ここは……?」
悠真は気づけば、一面の白に囲まれていた。
時間も空気も、現実味さえ希薄なその場所は——彼がかつて失った「平凡な世界」だった。
夕暮れの海辺。
釣竿と、友人の笑い声。
キャンパスの静かな日々。
そして、もう帰れない家。
「懐かしいな……」
すると、波打ち際に誰かが立っていた。
それは、もう会えないはずの人物——
「……母さん……?」
母親が静かに微笑む。
《あなたは、帰ってこなかった。あの世界に。》
《それで、良かったの? ヒーローになって、誰かを救うって……それは、“本当のあなた”?》
——心を刺すのは、外からの攻撃ではない。
観測される記録。
その深層にある、“もしも”の問い。
「……わからないよ。でも——」
悠真は《インデックス・ゼロ》を再起動させる。
「それでも、ここまで来たんだ。みんなと一緒に。エリンやセラ、シア、レーフィ、リオン、ゼイン……」
「だから、たとえこれが間違っていたとしても——俺の“選んだ道”だ!!」
空間が砕ける。
彼の“現在”が“過去の亡霊”を貫いた。
■
同時刻。
リオンの眼前に現れたのは、軍服を着た父だった。
「リオン。お前は“騎士”の名を汚した。命令違反。感情優先。理性なき選択」
「……知ってるさ」
だが、リオンは迷わない。
「けど、俺は間違えてない。あのとき、あの子を見殺しにしたら、もう自分が自分でいられなかった」
彼の《ツイン・アーカイヴス》が過去の記録を引き裂く。
父の幻影は消え、彼の正義が新たな軌道を描いた。
■
エリンの前には、小さな少女が立っていた。
それは、過去の彼女自身。
《どうせ何を言っても伝わらないよ……黙ってた方が楽なんだよ……》
かつての“諦めたエリン”が語る。
でも今の彼女は、そっと少女に寄り添う。
「ううん。言葉は届く。伝えるまで、少し時間がかかるだけ」
《……どうしてそんなこと、信じられるの?》
「信じさせてくれた人たちがいたから」
彼女の《グレイス・クォート》が詩を奏でる。
小さな彼女の肩に、未来への言葉が降り注いだ。
■
セラの干渉記録には、研究所の真っ白な壁が映る。
実験台に座らされる“もう一人のセラ”。
《あなたは、観測のために生まれた。感情は不要。逃げることも、愛することも》
「黙りなさい」
彼女の瞳に、恐怖はなかった。
「私は逃げた。誰かと出会い、信じ、今を戦ってる」
《ならば、それは記録の“逸脱”だ》
「それでいいわ。私は観測対象じゃない。“存在”としてここにいるの」
《イグジスト・コード》が真の輝きを放ち、空間が再構成される。
■
シア=ファルネウスは、学院時代の“裏切られた日”を再体験していた。
同級生が笑い、嘲る。
“お前なんか、最初から信用してなかった”という言葉が刺さる。
——でも、彼女はもう、あの頃のままではなかった。
「私は、無知だった。だけど、間違いじゃなかった」
《ルーメン・クロニクル》を開き、ページの中から新たな自分を呼び出す。
「私を信じてくれた人の声が、嘘なわけない。だから、この記録は——書き換えられる!」
■
レーフィが見せられたのは、幼き日の孤独。
誰にも頼れず、声をあげても無視され、理解もされなかった過去。
《強くなったように見せても、本当はまだ寂しいでしょ?》
「……ああ、そうだな。寂しいよ」
彼女は涙をこぼしながら、笑った。
「でも今は、みんながいる。ゼインも、悠真たちも。私の名前を呼んでくれる人がいる」
彼女の《リベル・ノート》が開き、今この瞬間を新しい“章”として記録する。
■
ゼインの記録には、“虚無”しかなかった。
ただ闇。
記録も過去も、何も残っていない空白の空間。
《お前には、記憶がない。記録される価値もなかった存在》
だが——
「……なら、これから刻むだけだろ」
彼は無から拳を放つ。
《パラドクス・ドライブ》が虚無に轟き、可能性の断片が炸裂する。
「俺は“何者でもなかった”から、何者にもなれる!」
その一撃が、虚無を打ち砕いた。
■
——そして、七人は再び中心に集結する。
かつての痛み、選択、喪失を乗り越えた彼らは、ひとつの軌道に向かって進む。
観測干渉——突破完了。
《オーバーザーバー》の演算がわずかに揺らぎを見せる。
七つの“今”が、“未来”へとつながりはじめる。
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