第61話「観測戦争」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《ラグナ・リリス・ゼロフォーム》が、漆黒の空間を切り裂いて進む。
その艦橋から見える先には、巨大な構造体が浮かんでいた。
それは塔のようであり、花弁のようであり、あるいは瞳のようでもあった。
《最終敵性観測存在——《リ・オブザーブド》、視界内に捕捉》
《エーリカ、演算限界を突破します。艦内全知覚領域を共有演算へ》
「よし、全員、臨戦態勢に入れ」
悠真の指示と共に、各個室にいた仲間たちが順にブリッジへと集結していく。
◆
「まるで……世界そのものを観測し返してくるような……いや、それどころじゃない」
リオンが青ざめた声を出す。
《リ・オブザーブド》は、“選ばれなかった記録”の集合体。
それらは捨てられた過去であり、選ばれなかった可能性であり、誰にも望まれなかった未来の断片だった。
「選ばれなかったことが、怒りに変わった……」
セラ=アーデルがそう言った瞬間、《リ・オブザーブド》の周囲に黒い触手のような構造がうねり、まるで観測者たちに“問い”を突きつけてきた。
《お前たちは、なぜそれを選んだ》
《なぜ、あれを捨てた》
《なぜ、我々ではなかった》
「……うるせえ!」
ゼインが叫び、記録武装を展開する。
《記録武装・境界調律形態『アーカイヴ・シフト:ケイオス』》
「俺たちは、お前たちを否定してきたわけじゃねえ。選ばなかっただけだ! けど……今ならわかる……お前たちも、確かに“存在”してたんだ!」
◆
敵性存在の攻撃が始まった。
《観測の逆流》——対象の過去と未来を同時に“破壊”し、存在そのものをなかったことにする力。
それに耐えるには、記録武装を通じて自己の“存在証明”を継続しなければならない。
「私は、私だ!」
レーフィ=シュタインベルグの身体が輝く。
《記録武装・真相起動『ヴェリタス・コード』》
「真実は記録に宿る。誰がどう見ようと、私はここにいると——証明してみせる!」
一方、エリン・グレイスは静かに目を閉じ、胸元の記録核に触れる。
《……全記録同期完了。投射開始》
《記録武装・導記展開『グレイスノート』》
彼女の周囲に現れたのは、過去に彼女が見てきた全ての“やさしさ”の記録。
「……私は、何も選べなかった。でも、あなたたちがくれたものを記録することはできる」
記録の光が黒い触手を焼き払う。
◆
戦闘は熾烈を極め、艦体すらもギリギリの防御を強いられていた。
しかしそのとき——
《最終観測照準、ロック完了》
エーリカが告げる。
「悠真、君の“記録”が鍵になる」
「俺の?」
「君は、“この世界に何を見たか”。その記録が、《リ・オブザーブド》に打ち込める唯一の“正観測”になる……!」
全員の視線が、悠真に集中した。
そして彼は、答えた。
「——仲間と旅して、命を助けて、怒って、笑って、泣いて……全部、全部が“本当”だった」
「俺は……俺の見てきたこの世界が、大好きだ!」
その瞬間、彼の背後に現れたのは、純白の槍だった。
《記録武装・最終形態『インデックス・ゼロ』》
それは、存在しなかったはずの“最初の記録武装”──世界のすべてを記録する“原初の観測槍”。
「行くぞ、《リ・オブザーブド》!」
悠真が叫び、記録の光が空間を貫いた。
槍が放たれたその先で、《リ・オブザーブド》の中心核が震えた。
◆
空間が崩壊する。
だがそれは、破壊ではなく“再編成”。
あらゆる観測の末に——ようやく、“正しさではなく、受容”が訪れようとしていた。
「世界は、完璧じゃなくていい」
「全部が選ばれなくても、意味があるんだ……!」
悠真の言葉と共に、艦はさらなる戦いの核心へと突き進む。
だがその先には、新たな観測の存在、《オーバーザーバー》の影が静かに待っていた。
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