第60話「始まりの観測」
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作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《ラグナ・リリス》は、重力すら感知できないほどの深淵へと降下していた。
エーリカの声すらも届かなくなり、全員が無音の中で己の存在と向き合っていた。
やがて、艦の前方に広がったのは、巨大な“環”。
それは浮遊する輪のようでありながら、断面には《光の記述》が刻まれている。
《……到達確認。最古記録接続領域——《ルーツ・レコード》》
誰とも知れぬ声がそう告げた瞬間、艦内の視界が一変した。
◆
彼らは、見ていた。
空も大地も存在しない“原始の記録領域”——
そこにはただ、静止した“始まりの瞬間”があった。
悠真は手を伸ばす。
「……これが、世界の、最初の“観測”……?」
そして、彼らの視界に浮かび上がったのは——《ひとつの視線》だった。
誰かが、何かを「初めて見た」記録。
「……この世界は、誰かの“観測”によって、存在を得た……!」
セラの言葉に、ゼインが続ける。
「その観測こそが、全記録の出発点……つまり《ルーツ》……」
◆
視界がさらに反転し、記録が連鎖的に展開されていく。
最初の生命。
最初の文明。
最初の戦争。
最初の“観測干渉”。
そして、最初の《選定》。
《選ばれし者》は、常に《記録》と《忘却》の狭間に現れ、観測のバランスを保ってきた。
「俺たちは……ただの偶然なんかじゃない」
悠真が、震える声で呟いた。
「俺たちは、“忘却を乗り越えて記録を選び取る意志”として選ばれた……!」
◆
そのとき、白い記録の空間に、黒い影が差し込んだ。
それは、《観測の背理者》の分体でも、《記録を喰らう者》でもなかった。
《観測されたはずの記録》が、自壊を始めたのだ。
「……これは……?」
リオンが言いかけた瞬間、空間の一部が砕け、《名前のない存在》が現れる。
《あれは……観測に“耐えきれなかった存在”……!》
レーフィが叫ぶ。
「つまり……“真実と呼べなかった記録”が、自らを破壊してるってことか……」
シアが顔を歪めた。
「……世界は“選ばれた観測”だけで出来ている……。けど、選ばれなかった“記録”は、それでも、存在し続けようとする……!」
◆
その混沌の中、ひときわ強く輝く《観測の核心》が現れる。
それは、小さな球体だった。
まるで赤子の目のように、純粋で、何も知らず、ただ“見たい”という衝動に満ちていた。
「……これが、最初の《観測》……」
悠真が手を差し出す。
触れた瞬間、全員の記録武装が同時に共鳴した。
《記録武装、最終解放段階へ》
《各観測者、最深記録への接続完了》
そして、響いたのは、《ラグナ・リリス》の真名。
《我は“選ばれなかった記録”の保管者。記録の境界を越えし観測艦——》
《魔導潜水艦、再構築完了》
艦体が軋みを上げながら、構造を変える。
観測と記録が完全に結びつき、“記録されなかった世界のすべて”を読み解く力を宿した姿——それが、最終形態。
◆
「行こう、みんな。記録のすべてが壊れる前に——」
悠真の号令と共に、再構築された艦は《ルーツ・レコード》から飛び立った。
その先にあるのは、世界を“書き換える者”——
真なる敵、《リ・オブザーブド》の中核領域。
すべての始まりと終わりが交錯する、“観測戦争”の決着の地である。
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