第6話「封じられた記録と“亡国の記憶”」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
夜が更け、セレディアの喧騒がようやく静まり始めた頃。
王都の一角に建つ古びた学術機関「賢者の書庫」は、ひっそりと闇に包まれていた。
「ここが……裏口?」
悠真が小声で尋ねると、エリンは頷いて、古びた鉄扉に手をかざした。
「封印解除……《ヴァス=ノエル》」
ぼんやりと青白く光る魔法陣が現れ、鍵のような形に変化する。
ガチリと錠が外れる音と共に、扉が軋んで開いた。
「早く。警備の巡回が来る前に」
ふたりは暗がりの中に滑り込む。
書庫の内部は思っていたよりも広く、そして静謐だった。
高くそびえる本棚には膨大な巻物と書籍、魔導式の記録装置が並んでいる。
「“王家の紋章”が刻まれてる本棚を探して。そこに分類されてる文献は、公には公開されてないものが多いの」
ふたりは手分けして調査を始めた。
だが、悠真がふと手にした黒革の書物が、異様な気配を放っていた。
「……“亡国アルザリオの記録”?」
その書には、300年前に滅びたとされる魔法王国の記録が綴られていた。
そして、そこに挟まれていた一枚の図——それは、悠真がラグナ・リリスで見た設計図と酷似していた。
「これは……! “もう一隻の潜水艦”……?」
その瞬間、背後の空気がわずかに揺らいだ。
「それ以上は危険だ、旅の少年」
振り向くと、黒衣のフードをかぶった人物が立っていた。
目元を隠すように布を巻き、手には魔導杖。
どこか、見覚えのある気配。
「誰だ……?」
「私は、エリンの過去を知る者。そして君の未来を知る者」
「……!」
エリンが駆け寄ってきて、目を見開いた。
「まさか……ヴァルト様!?」
「元“知識の守人”だ。今は追放された身だがな」
ヴァルトと名乗った男は、書棚の奥へと進み、一冊の厚い書物を取り出した。
それは、封印された歴史——王族にすら知られていない、“魔導艦計画”の真実を記したものだった。
「この王国はかつて、“深淵の門”に触れた。異世界との交信を目論み、禁忌の力に手を伸ばした結果、数多の文明が海底に沈んだ。君の艦——ラグナ・リリスはその一つだ」
「じゃあ、俺がここに来たのも……」
「偶然ではない。だが君の存在は、過去の王たちが望んだ“接触”とは違う。ラグナ・リリスが自律的に君を選んだのだ」
悠真は息を呑んだ。
自分は“選ばれて”ここに来た……?
「そしてもう一つ忠告しておこう。“第二の艦”は存在する。だがそれは、おそらく……王国を滅ぼす鍵になる」
「それはどういう……」
そのとき——ドンッ!! と大きな爆音が響いた。
「これは……!」
「書庫が襲撃されてる!」
ヴァルトは急ぎ巻物をまとめ、ふたりに手渡した。
「持っていけ。すべてを読むには時間が足りない。だがそこに、“座標”がある」
「座標……?」
「そうだ。第二の艦が封印されている場所の……魔導式による座標記録だ」
扉の向こうで衛兵たちの叫び声が迫る中、ヴァルトは振り返らずに言った。
「行け。エリン、少年——お前たちには、まだ“選択”する権利がある。だが今ここで捕まれば、そのすべてを失う」
「……行こう、悠真!」
「わかった!」
ふたりは隠し通路を通って書庫を脱出し、王都の夜の闇へと身を投じた。
その夜、セレディア郊外に停泊中のラグナ・リリスに戻ったふたり。
「AI、データ入力をお願い。これが“第二の艦”の手がかりよ」
《承認。記録データを照合中……“座標識別コード:エリュシオン海溝”を検出しました》
「エリュシオン海溝……?」
《現在地からおよそ1,200キロ南方。極深の魔力帯域に位置する、未探査の海域です》
「そこに、第二の艦が——」
悠真は、胸の奥で何かが高鳴るのを感じた。
謎は深まるばかり。
でも、その中に確かな手応えがある。
「行こう、エリン。次は、“そこ”を目指す」
「ええ。だけど、次の航海は命懸けよ。ラグナ・リリスは強いけど……きっと、あちらも目覚めている」
「目覚めている?」
《警告:未確認艦影、先行航行中。識別不能。追跡モードに移行します》
「……まさか」
エリンが静かに言った。
「“もう一人の艦長”が、先に目覚めているかもしれない」
海の向こうで——誰かが動き始めていた。
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