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第59話「観測の背理」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

《ミラージュ・ネスト》の中枢へと進む《ラグナ・リリス》は、やがてあらゆる記録が干渉を止め、ただ静かに蠢く“無記録領域”に入った。


艦橋の窓の向こうに広がるのは、色も形もない闇。


——いや、それは“闇”ですらなかった。


《観測不能。構成、存在、境界すべて不定。そこに“ある”とすら言えません》


エーリカが告げる。


「記録されていない空間……」


悠真は息を呑む。


「“誰にも見られなかった過去”か、あるいは“存在しなかった可能性”か……」


ゼインがそう呟いたとき、闇の中に、ひとつの声が生まれた。


《お前たちは……どこまで観測を信じている?》


それは音ではなかった。

理屈では届かない“印象”が、全員の心に直接流れ込んでくる。


《そもそも“真実”とは誰が決める。見たものが真か? 記録されたものが真か?》


「……姿を現せ」


悠真が言うと、艦の前方に巨大な歪曲が現れた。


まるで空間そのものが“見られる”ことを拒んでいるように、無数の目がこちらを見ている。


いや、それは《目》ではなかった。

観測されることそのものを拒絶し、記録を撹乱し、定義を曖昧にする存在。


——それが、《観測の背理者》。



「俺たちは、観測されることで存在を得た……けど、それが嘘だって言いたいのか?」


悠真が問う。


《お前たちは、“観測された世界の住人”だ。だが、我らは違う。“観測する者”の裏側にいる存在——“観測されない意志”》


「そんなものが……存在していいのか」


シアが呟く。


《我らは“誤記録”として生まれた。我らの起源は、“観測の失敗”だ》


「……!」


セラが目を見開く。


「つまり……誰かが、記録を間違えた結果、お前たちが……?」


《記録とは、選ばれた断片。だが、そこから零れ落ちた“観測されなかったすべて”は、どこへ消えた?》


言葉ではない問いが、全員の精神を試すように刺さってくる。


《その“零れ落ちた観測”を、我らは“収集”してきた。お前たちが見なかった、知ろうとしなかった、忘れ去ったすべて——それこそが、我らの力》



リオンが立ち上がる。


「……じゃあ、俺たちの記録すら、お前たちは“再構成”できるのか?」


《可能だ。だからこそ言う——“真実”はお前たちのものではない》


「違う!」


エリンが叫ぶ。


「たとえそれが間違った記録だったとしても、私たちはそれを選んで、歩いて、ここまで来た!それが私たちの“観測”!」


「そうだ……俺たちは、選んできたんだ。誰かに見せるためじゃなく、自分で、未来を作るために!」


悠真が拳を握る。


その瞬間、《ラグナ・リリス》の中枢が光を放った。


《記録武装、全員分の共鳴を確認。観測意志が揃いました》


《——記録制御領域、開放。侵入権限、取得》



「……なるほど」


《観測の背理者》が微かに笑った。


《ならば、“試してみるがいい”。お前たちの記録が、果たして“真実”と呼べるかどうか》


彼らの足元が割れ、下へと深く続く“階層”が現れる。


《来るがいい。そこは、全記録の原点》


「記録の……原点?」


《——《ルーツ・レコード》。“最初の観測”の眠る場所だ》


次の瞬間、《ラグナ・リリス》はゆっくりとその階層へと降下を始めた。


彼らが今まで辿ってきた道。

観測し、記録し、選び取ってきた軌跡。


そのすべてが、問われる時が来る。

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