表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/110

第57話「観測戦域《リフレクト・ホロウ》」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

その瞬間、世界が裏返った。


いや、“観測”が反転したのだ。


《ラグナ・リリス》が終末回廊ターミナル・ゼロから外宇宙観測面リフレクト・ホロウへと侵入したと同時に、艦を包む視界が白と黒の織りなす反射構造に変貌した。


上下左右の概念が曖昧になり、遠近もまた波打つ。

その空間を埋め尽くすようにして、霧のような波動体が接近していた。


「来るぞ……!」


悠真の叫びとともに、スクリーンに映し出されたのは、幾重にも重なった“観測の拒絶体”。


《再観測体》——死んだはずの観測情報が不完全に蘇り、意思を持たずして蠢く“虚無の集合体”。


《敵性反応多数、戦域全域に展開。最短接触まで残り十五秒》


「全員、迎撃準備。各記録武装、リンク・オン!」


《リンク・オン、完了。観測干渉率、上昇中——》


艦内が振動する。

次の瞬間、まるで“空間そのもの”が砲撃のように押し寄せた。



衝撃が走る。観測圧が空間ごと捻じれた。


敵は実体を持たず、“こちらの観測情報”をもとに現出する。

つまり“見る”ことが攻撃になり、同時に“見られる”ことが破滅の端緒となる。


《第一次迎撃フェーズ、展開》


艦の外装部から光の翼のような魔導構造が展開し、七つの記録武装が艦と同調。

エリンの《輝界の書板》が展開した結界陣が前方を覆い、敵性波を跳ね返す。


「このままでは押し負ける……セラ、上層フィールドを!」


《了解。観測式、同期開始。第二層、展開》


セラが操作する補助端末が走り、空間に記録された“本来あるべき観測座標”が上書きされる。

すると敵の波形が一部歪み、破砕音とともに二体が崩れ落ちた。


「いける……こいつら、理屈で倒せる!」


悠真が叫ぶ。

だが次の瞬間、別の方向から激しい振動が襲う。


《右舷、局所観測破壊反応!再観測体・群体種、侵入試み中!》


「リオン! そっち任せる!」


「言われなくても!」


リオンの《レムナント=クレスト》が機構を展開し、艦体右舷から放たれる魔力の波動を拳で殴り返す。


「ぶっ飛べぇっ!!」


霧の塊が爆発音とともに吹き飛び、再構成すら叶わぬまま霧散した。

拳に宿るのは、彼自身の意志。

記録を打ち破る暴力的なまでの“存在証明”。



「左、狙われてる……!」


シアが瞬時に演奏開始。

《滅音の竪琴》から放たれる音波が、敵の波動パターンを乱し、構造を無力化していく。


「静かにしてろって言ったでしょ……?」


響いた音が静寂を呼び、周囲に展開されていた敵性波がその場で停止する。

だがそれと同時に、新たな波形が艦体を包み込んだ。


《敵性観測構造、変化確認。自律反応型・位相適応体へと移行》


「うわ……今度は適応するタイプかよ……!」


ゼインが唇を噛む。


だが、その目は迷っていない。


「だったら、こっちもやるしかねえだろ。最奥干渉、いけるか?」


《可能。終端刃、位相限定出力で展開可能。制限時間、八十秒》


「十分だ。全部斬る」


ゼインの手に出現した《リベレイト・エッジ》が空間を断ち割るように動く。


まるで剃刀のように正確な軌道で、観測情報の“接点”を切断し、敵の存在そのものを消去していく。


「ゼインのやつ……すげえな」


リオンがぽつりと漏らす。

だが、まだ終わりではなかった。


敵は観測体の構造を利用し、《ラグナ・リリス》本体の記録にまで干渉を試みてきた。



《艦体記録領域に浸潤の兆候。主記録、エーリカのコアにも波及の恐れあり》


「待って、それって……!」


エリンの表情が強張る。


エーリカは即座に応答した。


《わたしの観測は……皆さんに託します。これより、自己記録保護処理に移行》


「だめ、そんなの……!」


「エーリカ、自己遮断は最後の手段だ! 他に手はあるはずだ!」


悠真が声を張ると、システムが微かに間を置いて反応した。


《提案:記録武装を艦全体と強制同期。擬似的な“七重観測防壁”を形成可能》


「それでエーリカを守れるか?」


《成功率は……67%》


「十分だ。やれ!」



艦内に鳴り響く警告音の中、七つの記録武装が艦体と完全に同調。

それぞれの意思が《ラグナ・リリス》の中枢と直結し、光の柱となって艦を包む。


観測されること。

記録されること。

その“証明”を力に変えて、彼らは敵の浸蝕を押し返していく。


やがて、艦の外周に展開された七色の光壁が重なり、敵の波動を一気に退けた。


《再観測体、撤退反応。敵性波形、減衰中》


戦闘が、一段落する。


沈黙の中、艦橋にはほっとしたような呼吸が広がった。


「……やった、のか?」


エリンが問いかける。

誰もすぐには答えなかった。

皆、汗をにじませ、ただその場に立ち尽くしていた。


だが、ふとエーリカの声が響いた。


《皆さん、ありがとうございます。わたしは……記録を維持できました》


その言葉に、エリンの目に光が宿る。


「よかった……本当に……!」



「これで終わりじゃないよな」


リオンのつぶやきに、悠真がうなずく。


「ああ。だけど……乗り越えた。この艦も、俺たちも。確かに前に進んだ」


艦の奥深くで、再観測体の残滓が揺れている。

だがそれは、確かに後退していた。


この戦闘は勝利ではなく、観測の“突破”だった。


《次の領域へ進行可能です。扉が——開かれました》


艦橋の前方、虚空に浮かぶ門が、静かに開いた。


それは未知の空間への招待。

そして、彼らの旅が次の段階へと進む合図だった。


「行こう。次の“記録”へ」


悠真の言葉とともに、艦が進路を定める。


——戦いは終わらない。

けれど、彼らの意志は、どこまでも強く、どこまでもまっすぐだった。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

過去の2作品も、興味がありましたら覗いてやってください~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ