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第56話「沈黙の深層、目覚める想い」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。


静寂の中、重力の感覚がわずかに揺らいだ。


《ラグナ・リリス》の主機が再び低く唸りを上げ、微かな振動が艦内を包む。

深海のような闇を漂うこの空間——終末回廊ターミナル・ゼロの最奥で、彼らはついに“境界の裂け目”へと接続を完了した。


「準備は完了しました。全記録武装、各個展開可能です」


静かに響いたのは、エーリカの声。

悠真は無言でうなずき、艦橋の前方スクリーンに浮かぶ光の断層を見据えた。

そこには、過去と未来の境界、観測と未観測が交錯する霧の渦がゆっくりと蠢いていた。


「……向こう側にいるのね、“再観測体”」


セラ=アーデルの低い声に、誰も言葉を返さなかった。

もはや言葉は不要だった。

皆、それぞれの想いを胸に抱きながら、これから訪れる“最終戦域”へと意識を集中させていた。


エリン・グレイスは、記録武装《輝界の書板〈ルミノア・アーカイブ〉》を手にし、心を静めていた。

淡く揺れる金色の魔法陣が、彼女の足元に展開される。


《……私はまだ、怖い。けど、もう逃げない》


この旅で失ったもの、得たもの、そして変わった自分。

悠真の背中を見て、自分の意志を持ち始めた日々を、彼女はゆっくりと思い返す。


セラやシア、レーフィ、リオン、ゼイン……。

皆、何かを背負っている。

それでも立ち上がり、戦うと決めた。


ならば自分も——この戦いに、意味を与えたい。


《エリン、展開準備完了です。観測位相、安定域に移行します》


「ありがとう、エーリカ。私は——“未来”を見たい」


彼女の足元に広がった魔法陣が光を増し、彼女自身の“記録”が観測世界に刻まれていく。


同じ頃、リオンは整備区画にて、巨大な記録武装《レムナント=クレスト》を背負っていた。


「やっと、この力を試せる……か」


彼の前には、かつて見た“赤の霧”の記憶が幻影のように揺れていた。

“忘却の通路”で向き合った過去。

それは痛みだったが、同時に彼の意思を固めた道標でもある。


「俺は俺のやり方でやる。……この拳に、全部預けたからな」


リオンの拳が光を纏い、無骨な構造体の一部が彼と同調していく。

その手の先には、虚無の空間から現れつつある異形の存在が、微かなノイズとともに姿を見せ始めていた。


“再観測体”——“死した観測”の再帰。それは観測世界の理から外れたもの。

だが彼らは、すでにその存在に打ち勝つための手段を手に入れている。


「さあ……こっからが本番だ」


セラは、ターミナル・ゼロの奥にそびえる記録端末の前に立ち、無数の数式と映像を読み込んでいた。


「……やっぱり、これが起点だったのね。“境界管理者”の初観測記録。ゼロからの記録群」


彼女の瞳が淡く光り、古代言語で刻まれた記録に視線を這わせる。

その情報は、彼女のいた世界——研究機構と《クリムゾン・スパイア》の技術とも一致する部分があった。


《セラ、君の許可があれば、再接続と直接観測も可能です》


エーリカの声に、セラは小さくうなずいた。


「行くわ。過去の私と、今の私。その両方で、決着をつけるために」


彼女の手が端末に触れた瞬間、深層に沈んでいた“境界の観測ログ”が鮮やかに浮かび上がり、記録武装インコード・クロニクルが新たな輝きを放った。


そして、シア=ファルネウスは静かに戦闘甲板に立っていた。


銀髪がふわりと揺れ、周囲の空間そのものが震えるような感覚が走る。

彼女の持つ記録武装《滅音の竪琴〈ノイズ・リリック〉》は、音すらも沈黙に染め上げる力を持っている。


「この静寂……嫌いじゃないわ。けど」


彼女はそっと目を閉じ、記憶の中にある“誰かの涙”を思い出す。


「——今は、叫ばせて。私の音で、未来を震わせるから」


彼女の足元に音符のような魔法陣が走り、戦場へと向かうための調律が始まる。


一方、ゼインはラグナ・リリスの最深部、“制御中枢ゼロ・リンク”にいた。


彼の眼前には、かつて自らが触れた“観測記録の海”が広がっていた。

彼はそこで自らが“境界調律者”として覚醒した瞬間の記録を、今一度確認していた。


「俺は……もう誰でもない。でも、“選ばれた”なら、選び返すだけだ」


彼の周囲に、無数の観測リングが出現する。

“観測を拒むもの”を斬るための、唯一の干渉装置——《終端刃〈リベレイト・エッジ〉》。


記録武装としては異質な構造。

だがそれこそが、ゼインという存在の証明だった。


「さあ、来いよ。お前らの観測、ぶち壊してやる」


そして——結城悠真は、静かに椅子から立ち上がる。


「各員、全装備展開。境界干渉フィールド、最大出力に」


《了解。すべての記録武装が臨界に達しています。現在、艦体は“多重観測位相”にて干渉中》


彼はふっと息を吐く。

これまでの旅のすべてが、今ここに繋がっている。


「俺たちはここで終わらせない。未来を観測する。それが——」


その先を、誰よりも静かに、強く語った。


「……俺たちの“答え”だ」


ラグナ・リリスの艦体が、空間を切り裂く。

“再観測体”の群れが姿を現す中、七つの意志が輝きを放ち、交差する。


決戦の時は、来た。

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