第52話「記録の継承者たち」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《ターミナル・ゼロ》に広がる虚無の中、七人の足元を囲むように光の円環が浮かび上がる。
その中心に開かれた《オリジン・コード》は、古の記録の断片を放ち始めていた。
「これは……世界の“記憶”?」
セラの声に応じて、書のページから幾千の映像が空間に投影される。
そこには、幾つもの滅びた文明、忘れられた神殿、そしてかつて“観測されなかった”存在たちの記録が次々と映し出されていた。
「全部……“消された”世界の名残か」
ゼインの言葉に、誰も反論できなかった。
その中で、ひときわ鮮明な映像が一つ、浮かび上がる。
――古代の空中都市。無数の光学装置と観測機が並び立ち、中央には一人の女性が佇んでいた。
「リュミエル……」
悠真が声に出すと、像の彼女が語り始めた。
『これは、私たちが記録を始める前の最後の記録。記憶の牢獄から逃れた者たちが、再び“自由な世界”を取り戻すための記録』
『観測は力。だがそれは、同時に“運命を固定する枷”でもある』
『だから私は、記録を“閉じる”者を待っていた。』
映像は消え、代わりに現れたのは――人ならざる者たち。
《再観測体》と呼ばれる異形の群れだった。
かつて観測から外され、歴史から消された存在。
その怒りと憎しみが今、実体となって現れたのだ。
「ここで終わらせる。俺たちの手で」
悠真が一歩、前に出た。
彼の背後で、仲間たちが各々の武装を展開する。
エリンは《原初の旋律》を紡ぎ、空間の振動を制御する。
セラは《記録封鎖式》を起動し、異形の存在の再生能力を打ち消す。
シアの《断絶の槍》は、観測に干渉する力を持つ。
レーフィの《真理の瞳》が敵の位置と“記録されていない弱点”を暴く。
リオンは《多重因果の刃》を振るい、過去と未来を織り交ぜた斬撃で敵を貫く。
ゼインは《観測修復装置》を解放し、仲間の因果を補正し続ける。
「来い、記録の外から来たものよ。俺たちが――お前を“記す”!」
悠真が叫んだ瞬間、空間が激しく揺れ、全ての因果が交錯した。
**
それは、言葉にできない戦いだった。
時間の流れは歪み、記憶の一片が武器となり、防壁となり、また敵そのものともなった。
敵は言葉を持たず、形すら持たなかった。
ただ、存在することを否定され続けた怒りが、形を取っているだけ。
「ここで……終わらせるわけには……いかない!」
エリンの旋律が共鳴し、虚無に一筋の色彩を与える。
それが、戦況を変えた。
「リュミエルの記録に従うな。俺たちは“未来を選ぶ”!」
悠真が《真理の鍵》を掲げ、コードの一節を書き換える。
《観測者》である彼らだけが為し得る行為。
「全てを“記す”んじゃない。俺たちは、“記すことを選ぶ”!」
それは観測の拒否。
世界を、運命を、ルールそのものを再定義する力だった。
記録の外から来た敵が、崩れ始める。
「この空間も限界だ!」
ゼインが叫ぶ。
《ターミナル・ゼロ》そのものが、今や記録の力によって崩壊を始めていた。
「出口を開く……最後のページに、未来を記す!」
悠真が最後の一筆を空に刻むと、そこに“記されていない未来”への道が拓けた。
**
彼らは飛び込んだ。
世界の真理が書き換えられる、その直前に。
記録が終わり、物語が新たに始まる、その“余白”へと――。
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