第5話「未来視をする仮面の少女」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
「……ここが、王都セレディア」
悠真は思わず息を呑んだ。
白い城壁に囲まれた都市は、遠くからでも荘厳な美しさを放っていた。
街道を行き交う馬車、石畳に映る日差し、そして中央にそびえる純白の王城。
まるで絵本の中に迷い込んだような幻想的な風景だった。
「驚いた? でも、外観に騙されちゃダメ。あそこには権力、陰謀、そして……秘密が渦巻いてるわ」
エリンが表情を引き締める。
ふたりは街の南門をくぐり、人混みに紛れてセレディアへと足を踏み入れた。
「まずは情報収集ね。王宮のアーカイブに入るには、正規の身分証か、特例許可が必要になる」
エリンは一枚の地図を取り出し、指差す。
「ここ、〈賢者の書庫〉って場所に向かいましょう。歴史学者や記録官たちが集まる施設で、表向きは民間の学術機関。だけど、裏では王城に匹敵する量の文献が眠ってるって噂」
「じゃあ、禁書に書かれてた“第二の艦”の情報も、そこに?」
「可能性はあるわ」
ふたりは街の大通りを抜け、王都中心部へと向かった。
途中、露店が並ぶ賑やかな通りで、ふいに少女の声がした。
「——旅人さん、あたしの手相術、見ていきませんか?」
振り返ると、仮面をつけた少女が、白いテントの中からこちらを見ていた。
「手相? こういうのって、だいたい当たらないんじゃ……」
「当たらなかったら、料金はいただきません。……でも、あなたは特別」
不思議な声だった。
静かで、優しくて、でもどこか、心を覗き込まれるような感覚。
エリンが警戒する中、悠真は思わずその言葉に引かれ、テントへと入った。
少女は淡い紫のローブに身を包み、顔の半分を仮面で隠していた。
露わになっている口元は、どこか寂しげに笑っている。
「あなたは、“海の門を越えし者”。……異界の記憶と、力を宿す者」
「——!」
悠真は思わず手を引っ込めそうになったが、少女は続ける。
「“鍵持ち”として選ばれたあなたが、今、封じられた戦いに踏み込もうとしている。……ラグナ・リリスの導きに従えば、第二の艦は必ず目覚めるわ」
「なぜそれを知ってる……?」
少女は微笑んだ。
「わたしの役目は“伝える”こと。未来を変えるために、あなたに伝言を——」
そのとき、外で叫び声が上がった。
「“仮面の占い師”だ! 捕えろ!」
衛兵の怒鳴り声とともに、数人の兵が駆け込んでくる。
「この街では非認可の未来視は禁止だ! 貴様、また禁術を!」
少女は一瞬だけ悠真を見て、口元で囁く。
「また会いましょう。“艦長”——」
そして、光が弾ける。
次の瞬間、少女は煙とともに姿を消していた。
「消えた……!?」
「悠真、早く! 衛兵がこっちに気づいた!」
ふたりは慌てて人混みに紛れ、路地裏へと駆け込んだ。
夕暮れ時、ようやく追っ手を撒いたふたりは、裏通りの石階段を上りながら息を整えていた。
「今の子……いったい何者だったの?」
「分からない。でも、“艦長”って……確かに言った。俺がそうなるって、どうして……」
考える暇もなく、彼の肩に何かが乗った。
「……それ、また光ってるわ」
悠真の手の甲。
そこには、ラグナ・リリス起動時と同じ紋章が浮かび上がっていた。
まるで、次の“鍵”が近づいていることを示すかのように。
その夜。
ふたりは書庫の裏手にある宿屋に潜みながら、入念な計画を立てていた。
「明日の夜、“賢者の書庫”に潜入するわ。正面からは無理。裏口と地下通路を使う」
「わかった。でもエリン、危険だったら——」
「……悠真、覚えておいて。あなたは、ひとりじゃない。わたしがいる。ラグナ・リリスがある。だから……恐れずに、進んで」
その声に、不思議と胸が熱くなる。
この世界に来て、まだ日は浅い。
でも確かに、彼はここに“居場所”を得ていた。
——いや、まだ得ようとしている最中なのかもしれない。
「ありがとう、エリン」
「ふふ。照れるわね」
仄かに灯るランプの明かりの下、ふたりは静かに明日の作戦に備えた。
外では、王都の夜がゆっくりと深まっていく。
だがその中心部——王宮の地下では、何者かがひとつの封印を解除していた。
「……いずれ、全てが目覚める。第二の艦も、“深淵”も——」
仮面の少女が囁いた謎は、まだほんの一端にすぎなかった。
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