第47話『観測の限界(リミット・オブザーバブル)』
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
――空間が“逆流”していた。
悠真の斬撃が残像を遡るように消え、セラの発した観測共有がノイズと化す。
空間の一部が何かに「上書き」されるように、歪みながら明滅していた。
《こちら、セラ。観測が反転している……これは、リ・オブザーヴドによる干渉波……!》
彼女の通信が割れると同時に、悠真の視界に“それ”が現れる。
“黒い虚像”――いや、“こちらを模した像”だった。
巨大な影のような存在。
それは《ラグナ・リリス》の外殻を模しつつ、複数の人型を束ねたような異形体。
“記録”そのものの怪物。それが《再観測体・オーバーミラー》。
《コード:ディープフォーカス》を展開したまま、悠真は敵の挙動を分析していた。
「……こいつ、観測者の“視点”に寄生して、攻撃の発生条件そのものを先に“記録”してくるタイプか……!」
つまり、こちらが“何かをしようとした瞬間”を感知し、実行前に“すでにやられた”ことに書き換えてくる。
悠真はステップを踏みながら斬撃を繰り出す。
しかし刃が届く前に、視界に《斬撃失敗》の記録が流れ込んできた。
(こいつ、俺たちの“未来の行動”を先に観測して、それを書き換えてる……!)
「だったら……未来を視た上で、ズラせばいい!」
悠真はタイムフォーカスを三重起動。
数秒先の自分の行動を捨て、さらに先の“ズレた選択”で敵の観測を欺く。
「行け……!」
斬撃が虚像の中心を割った。
確かに、命中した手応えがあった――
だが。
《観測解除:対象行動、無効。理由:記録過去に再干渉。》
――再観測体の能力が発動し、命中そのものが“なかったこと”にされた。
「……チートかよ……」
悠真が歯噛みする間に、戦場はさらに狂気へと沈んでいく。
《オラクル:エンチャント・ナンバーズ》は、数式で未来の確率を探る記録魔法。
彼女は戦場に浮かぶ《観測式》を見ながら、目を細める。
《……相手の演算速度がこちらを超えている……けど、それは“数式上”の話……》
「なら、感情式で逆転させる……!」
エリンは、魔力で“感情”を演算式に織り込み始める。
涙、祈り、怒り、希望――数値化できない不確定要素を方程式に変換する。
《式展開:C=希望値 / 絶望率 × 逆転因子 ──発動。》
彼女の詠唱に呼応して、味方たちの未来確率が反転。
悠真の次の攻撃成功率が再び50%を超える。
《やれるよ、悠真くん……今なら“書き換えられない希望”がある!》
セラ=アーデルの《ヴァンテージリンク》は、全味方の視野を接続し《多視点統合》を行う。
だが、今はリンクすらノイズを生む。
《ゼイン、レーフィ、エリン……誰か、観測の優先権を一時的に渡して!》
《ここだ、セラ!》とゼインの声。
セラは即座にゼインとリンク。
境界操作によって“相手の観測領域”を限定してくれたおかげで、セラの視界が晴れる。
(観測支点確保……! やれる……)
《観測リンク再起動──接続者:悠真、エリン、シア、レーフィ、リオン》
全員の目線が再び一つに結ばれ、戦況が一点突破に傾き始める。
境界記録を用い、ゼインは戦場の「条件」そのものを再定義していく。
「存在条件:再観測体は《物理的存在である》。
……そして、弱点は“虚構の記録”。」
ゼインは自身の腕に情報帯を走らせ、《ラグナ・リリス》に格納された過去記録を投影。
「観測者が記録を信じなければ、その記録は偽物となる!」
再観測体の一部が震え、赤黒い波動が漏れた。
存在が“不安定”になっている証だ。
《サンクティ・フォルス》が展開する“守護の結界”は、今や戦場の中心。
しかし、再観測体の干渉によって、守る対象そのものが書き換えられる危機に晒されていた。
(守る……でも、それは“誰かの未来”じゃない。今ここにいる、仲間の“現在”なんだ!)
シアは自身の祈りに応じて、結界を《存在結界》に昇華。
再観測体が《仲間の存在自体を消す》記録を実行しようとするたび、それを“否定”していく。
《存在承認──レーフィ=シュタインベルク、エリン・グレイス……!》
「私はあなたたちが“ここにいる”ことを、誰よりも信じる……!」
《レクイエム・オブ・トゥルース》が蒼く発光し、戦場の嘘が次々と暴かれていく。
「再観測体、オーバーミラー……お前の中にある記録群、それは《虚偽》だ。」
《観測命令:対象構成記録の真偽照会──開始。》
すると、再観測体の体が軋む。
構成要素の記録が嘘と判定され、自己崩壊が始まる。
レーフィは微笑んだ。
「真実は、観測されるのを待ってるんじゃない。自分で見抜くものだよ。」
リオンの《アーカイブ・ハウリング》が発動し、彼の身体が蒼い記録帯で覆われていく。
「じゃあ、俺の“過去戦闘記録”──全部見せてやるよ!」
突如、リオンの背後に彼が今まで対峙した敵の影が出現。
それらの動き、攻撃パターン、対応策を模倣し、即座に《対応型戦術》として変換。
再観測体が模倣してくる先から、そのさらに先を先回りして潰していく。
「お前が“観測する”前に、こっちはもう“実行”してるんだよ!」
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