第43話「虚空の侵食者《ヴァン・アルグ》」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
漆黒と蒼白の揺らめく“境界の虚空”。
そこに浮かぶ艦――ラグナ・リリスは、確かに“そこ”に存在していた。
この空間は、重力も時間も崩れかけている。
存在することすら困難なはずの場所で、彼らは《敵》を待ち受けていた。
《敵性存在との交戦域、0.3パーセク以内に突入。敵、構造変化を開始》
艦橋に響くエーリカの報告に、全員がモニターに目を向けた。
現れたのは、巨獣とも機械とも言えぬ、抽象的かつ歪な“存在”。
その輪郭は常に揺らぎ、周囲の空間そのものを歪めながら進んでくる。
「……これは、情報そのものが“崩壊してる”……」
セラが表情を強張らせる。
「見るだけで認識を狂わせてくる……《観測拒絶》が本能的に働いてるってことは、こいつ……!」
「下手に視るな。認識の構造が乱される。数値解析と波形だけを見ろ」
シアが制御席で迅速に術式を展開する。
《対観測者防御:連続起動。主砲収束完了》
「撃て!」
悠真の命令が下った瞬間、ラグナ・リリスの艦首から蒼い閃光が放たれた。
――空間が、割れた。
《直撃確認。敵の情報構成に“穴”発生》
だが、その“穴”はすぐに歪みながら塞がり、ヴァン・アルグはまるで笑うように蠢いた。
「効かない、のか?」
「いいえ、効いてる。ただ……あれは“修復する概念”を持ってる」
そう答えたのは、記憶を失ったはずの“あの少年”。
彼の目は、既に“かつての色”を取り戻しつつあった。
「俺は……知っている。あれは、“観測の失敗”が具現化したもの……」
「君は……何者なんだ?」と、エリン・グレイスが問うた。
「……“ゼイン”。そう呼ばれていたと思う」
「ゼイン……?」
「多分、俺は《調整者》の一人だった。“別の世界で起きた崩壊”の記録を運ぶために、転移された存在」
その言葉に、艦内の空気が変わった。
「つまり、お前は……この艦と同じように、“向こう側”から来た存在?」
「そうだ。そして、“この世界がたどるかもしれない未来”を見てきた」
ゼインは静かに拳を握る。
「だから、絶対に……あれだけはこの世界に入れさせるわけにはいかない!」
《接続ゲート、再調整開始。ゼイン=コード承認。“境界調整者”として戦術演算に参加許可》
艦そのものがゼインの記憶を認め、彼の存在を組み込む。
《次元干渉投射装置稼働準備》
シアがすぐさま術式を補完し、ラグナ・リリスが次なる一撃を放つ――
今度の砲撃は、“存在の位相”をずらす波動だった。
それはヴァン・アルグの存在を“この世界の法則”から引きはがし、同時に“観測できる形”へと固定する。
《固定成功。敵、完全観測状態に遷移》
「今だ、撃ち抜け!」
再び放たれた《レイ・アーク》は、今度こそ敵の中心核に直撃する。
――破壊音はなかった。
ただ、ヴァン・アルグは霧のように消えた。
恐らく、“存在することを許されなくなった”のだ。
沈黙が艦内を包んだ。
悠真は深く息を吐いた。
「これが……この艦の、本当の戦いか……」
「……でも、これはほんの序章よ」
セラが低く言う。
「この先には、もっと強い“境界の番人”がいる。あの敵は、ただの《観測不能領域の漏れ出し》……本番はここからよ」
ラグナ・リリスは、なおも進む。
目指すは、終末回廊の核心――
そして、“この世界を観測しようとする者たち”の本拠地。
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