第40話「観測者の座標」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
静寂。
けれど、それは空虚ではなかった。
光と影が層を成すように折り重なった空間。
その中心に、五人は立っていた。
《終末回廊》の最奥。
そこは、世界の“観測点”とも呼ぶべき場所だった。
浮かぶ階層式の光輪、左右非対称の柱、回転する文様群。
時間の流れすら曖昧になるような空間の中央に、《観測者》は静かに佇んでいた。
仮面の下にある顔は見えない。
だが、その視線だけが異様に強く感じられる。
『君たちは、全ての通路を越えた。意思、記録、犠牲、忘却、そして真実。五つの座標を揃えた者たち……それは、この時点において例外的である』
声は性別すら不明瞭なまま、全員の内側に届く。
悠真が一歩前に進んだ。
「“観測者”って、いったい何なんだ? この世界を監視している……何者だ」
『我々は、世界の端に立つ者。始まりを知り、終わりを記録し、それを“次”へ引き渡す。すべてを選ばず、ただ記す者たち』
エリンが小さく眉を寄せる。
「あなたたちは、神なの……? それとも、誰かに創られた存在?」
『定義の差異に意味はない。我々が見ているもの、それは“歪んだ繰り返し”の螺旋だ』
シアが反応する。
「歪んだ……繰り返し?」
『転移者、召喚者、記録者、介入者……この世界には幾度も“外部の者”が干渉してきた。君たちもまた、その螺旋の中にある者。だが、今回は違う。“誰か”が……門を開けようとしている』
セラの視線が鋭くなる。
「門……それが《ラグナ・リリス》が反応した対象?」
『その通り。我々が観測した限り、ラグナ・リリスと呼ばれる“境界航行体”は、本来この世界の産物ではない。にもかかわらず、君たちの接近により起動した。つまり、君たちは“門の鍵”でもある』
レーフィが難しい表情で呟く。
「……門って、具体的にどういうもの? 場所? 機構? それとも……概念?」
『門は“世界の外”と“内”を繋ぐ“可能性”。それを開くことは、既存の秩序を破壊し、新たな“再編”を招く――』
一瞬、空間全体が微細に震えた。
『だが、我々には“開ける”ことはできない。ただ見るだけ。それが我々の制約。選ぶのは、常に君たちだ』
「……それで、その選択って何を意味するんだ?」
悠真が問うと、観測者は静かに手を差し出す。
その先に、五つの光球が浮かび上がる。
『この世界は既に歪んでいる。幾度も繰り返された干渉と改変により、本来の“軸”を失っている。君たちは、その修正点に到達した。選択肢は三つ――』
光球が三つに分かれる。
記録を保持したまま、外部へ脱出する
世界の内部に残り、“修正者”となる
門を開き、向こう側へと渡る
レーフィが低く呟いた。
「……どれを選んでも、元の世界には戻れない、ってことか」
『正確には、戻ることはできる。ただし、“君たち”としては、ではない』
エリンが顔を伏せた。
誰もが、今までの旅の記憶と重ねてその言葉を噛みしめていた。
だが、悠真は静かに拳を握った。
「俺たちは、バラバラだった。過去も、立場も、考え方も違った。でも……今は違う」
仲間たちが顔を上げる。
「それでも、共に歩いてきたんだ。誰かの命を救いたいと思ったし、誰かの涙を見て心を痛めた。だから……」
悠真は、真っ直ぐ“観測者”を見据えた。
「俺たちで、選ぶ。これが終わったら――ラグナ・リリスに戻って、リオンや、あの少年にも話してやらなきゃならないからな」
光が、彼らを包む。
それは、“鍵”として認められた者にのみ与えられる“通過権”。
扉が現れる。
《門》――この世界の外と繋がる、かつてない領域への通路。
『よかろう。君たちの選択を、我々は記録しよう。
そして、その記録が、次の“世界”の礎となることを――』
扉が開き始めた。
五人は一度、互いを見て頷き合った。
――今度は、誰も迷わない。
――この手で、未来を開く。
そして彼らは、扉の先へと歩みを進めた。
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!
過去の2作品も、興味がありましたら覗いてやってください~。




