第4話「禁書の扉」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《ラグナ・リリス》は、王都セレディア近海の静かな入り江に姿を隠すように潜航していた。
水面から深度二十メルスタ(この世界の深度単位)ほど下、古代の遺跡と岩礁の影に身を潜めながら、その船体は静かに休息を取っていた。
「セレディアまで、ここから歩いて半日。途中に村が一つあるわ」
艦の出入口で準備を整えながら、エリンが説明する。
今日の彼女は艦内用の制服ではなく、動きやすい外套と革のブーツ姿だった。
赤い髪を後ろで束ねているのが新鮮に映る。
「俺もちゃんとそれっぽくなってるか?」
悠真も、この世界の服に着替えていた。
装飾の少ない黒のチュニックに、簡素な腰帯、そしてラグナ・リリスで調達された革の装備。
見た目は完全に旅人のそれだ。
「似合ってる。……ちょっと、かっこいいかも」
「えっ、なにか言った?」
「べ、別に。行きましょう!」
エリンは早足で先に立ち、悠真は慌てて後を追った。
セレディアへの道中、ふたりは〈カルネ村〉という小さな集落に立ち寄った。
素朴な木造の家々と、人懐こい子どもたちの笑顔が印象的な場所だった。
「ここ、のどかだな。まるで日本の田舎みたいだ」
「……でもね、ここ最近、村の外れで“夜に光る扉”が目撃されてるって話があるの。遺跡の一部か、それとも転送魔術の痕跡か……放っておけないわ」
悠真は考え込んだ。
「……セレディアへ行く前に、確かめてみようか」
「そう思ってくれるって、信じてた」
エリンの微笑みに、悠真の胸が少しだけ高鳴った。
夜。
ふたりは村の外れにある丘に向かっていた。
月の明かりに照らされながら、風に揺れる草の間を進む。
「……あれ。あれじゃないか?」
丘の中腹、苔むした岩壁の前に、不自然な光の線が走っている。
まるで壁に描かれた門のような形で、淡い青い光を放っていた。
「魔導式の封印だわ……しかも、これはかなり古いもの」
「解ける?」
エリンは真剣な顔で頷く。
「やってみるわ。カバーしてて」
彼女が魔導プレートを取り出し、門の中心に翳す。
次の瞬間、光が強くなり、紋章が複雑に展開された。
《——資格確認。鍵持ちの同伴、検出。扉、開放を許可します。》
「……俺?」
悠真の手に、いつの間にかラグナ・リリスの起動時と同じ光が灯っていた。
気づかぬうちに、彼はこの世界の“鍵”として、他の古代システムにも認識されていたのだ。
岩壁が軋み、石の扉が横にずれていく。
その中は、薄暗く、だが確かな人工の通路だった。
「……行くしかないな」
「ええ、慎重にね」
ふたりはゆっくりと通路へと足を踏み入れる。
地下の通路は、緩やかに螺旋を描いて降りていた。
途中、いくつかの装置が朽ちていたが、ほとんどは機能停止状態。
やがて、一つの円形の部屋にたどり着く。
その中心に、黒い石の台座。
そして、その上には一冊の本——光を帯びた魔導書があった。
「これは……“禁書”」
エリンが息を呑んだ。
「どう見てもやばそうだけど、触って大丈夫なのか?」
「本来なら触れた者は……魔力の暴走で消滅する。でもあなたなら、きっと——」
悠真はゆっくりと手を伸ばした。
台座の上の魔導書に、指先が触れた瞬間——。
——《認証完了。禁書『アスヴァルの記録』、閲覧を許可》
書の表面が光り、次々と文字が浮かび上がっていく。
そこに記されていたのは、かつて“この世界と異界を繋いだ門”と、それを巡る戦争の記録だった。
「これは……ただの予言じゃない。過去に、異界からの“鍵持ち”が何人も現れてた……!?」
「しかも、“鍵持ち”同士が戦ったって……!」
エリンは恐る恐るページを繰る。
そして、一枚の図を指差した。
「これ……ラグナ・リリスじゃない!?」
悠真の背筋が凍った。
「まさか、あの艦も……過去の戦争に使われた……?」
禁書に記された“第二の艦影”という存在。
もし、ラグナ・リリスに対抗するもう一つの艦があるとすれば——それは、この世界の平穏を大きく揺るがす存在になる。
「セレディアに急ごう。今ならまだ、間に合うかもしれない」
ふたりは禁書を持ち、地下遺跡を後にした。
その背後で、ゆっくりと再び扉が閉じる。
まるで、すべてを見届けたかのように。
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