第39話「歪曲領域」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
光の扉をくぐった瞬間、重力の方向が失われたかのような感覚が五人の身体を襲った。
前も後ろも、上も下も曖昧になる空間――そこは、まるで空間そのものが“思念”によって形成されたような異質の領域だった。
「……ここ、は……?」
レーフィが呟く。
視界に映るのは、漂う光の断片、そして次々に現れては消える“記憶の幻影”。
古びた街角、沈む夕陽、誰かの声。
時系列も因果も崩れた断片的な情景が、波のように流れていく。
「これ……全部、誰かの記憶?」
エリンがその場に立ち尽くしながら、すぐ近くに現れた《自分の子供時代の幻影》を見つめた。
そこには、笑顔で花を摘んでいた小さな自分と、手を引く母の姿があった。
「これは罠じゃないわ……でも、見る者によって姿を変える“観測干渉型領域”。極めて不安定よ」
セラは、感情を抑えた声で周囲を解析していた。
悠真が静かに皆の中心に立ち、声を上げる。
「……目的を忘れるな。この空間は、“核心層”の入り口。試されるのは、今の俺たちが“何を選ぶか”だ」
その時だった。
どこからともなく、音ではなく“声に似た揺らぎ”が聞こえた。
『キミたちが望んだのか? それとも、導かれたのか?』
その声は一人一人の胸の内に直接届き、それぞれの記憶を掘り起こすように語りかけてくる。
シアの周囲に、かつて彼女が所属していた組織の研究施設が浮かび上がる。
そこには、幼い頃の彼女が研究対象として拘束されていた光景が映し出されていた。
「……やめて」
シアがかすれた声で呟いた時、その幻影は霧のように溶けた。
「この領域は、“記録”じゃない。観測することで形を変える、記憶と感情の鏡……!」
レーフィが分析する。
「なら、この空間に“固定された核”があれば、そこに集まる情報は、いずれ一つの像を結ぶ」
セラの言葉に、悠真が頷いた。
「俺たちは……その核を探しに来たんだろ。じゃあ、進もう」
五人が円陣を組むようにして進み出す。
一歩ごとに、過去の幻影が浮かぶ。
笑顔。涙。絶望。希望。
それは、彼らが乗り越えてきたすべてだった。
やがて、空間の中心に“人影”が現れた。
白いローブをまとい、顔を仮面で覆った存在。
静かにこちらを見つめる“それ”は、どこか懐かしく、同時に恐ろしくもある雰囲気を纏っていた。
『ようこそ、核心へ。キミたちが“真実”を求めるのなら、我々《観測者》は、その扉を開ける権利をキミたちに託そう』
「……観測者?」
シアが一歩前に出る。
「あなたたちは、この世界を見続けてきた存在?」
仮面の存在は頷き、次の瞬間、五人の頭の中に直接、“映像”が流れ込んだ。
それは、世界の創世。
転移者たちの影。
崩壊と修復の連鎖。
そして、いまだ名もなき《門》の存在。
『知る覚悟があるならば、進みなさい。
見る覚悟があるならば、開きなさい。
選ぶ覚悟があるならば――答えなさい』
「問うのは……“何を守り、何を手放すか”か」
悠真は深く息を吸い、手を伸ばした。
「この扉を開けよう。俺たち五人で」
五人が同時に“観測者”の前に進み出た瞬間、空間全体が激しく揺れ、光の扉が浮かび上がる。
それは、世界の根幹に触れる“核心”そのものへの入口。
そして、その先で彼らが知る真実は、ただの歴史の断片ではない。
――彼ら自身の存在すら揺るがす、“選択”の物語が、いま始まろうとしていた。
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