第37話「残された者たち」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
深海のように静まり返った艦内。
その静寂を破るのは、かすかな電子音と、規則正しい鼓動のように響く魔導炉の低音だけだった。
「……また、あの夢を見た」
リオンはベッドの縁に腰かけながら、額の汗を拭った。
夢の中では、必ず誰かが泣いていた。
それが誰なのかも、なぜ泣いていたのかも思い出せない。
ただ、その涙は確かに、自分の心を引き裂いていた。
「リオン、大丈夫?」
振り返ると、記憶を奪われた少年が心配そうにこちらを見つめていた。
以前よりも表情は柔らかく、言葉にも感情がこもるようになってきている。
「……ああ。悪い、起こしたか」
「いや。僕も目が覚めてた。……リオンが、何か苦しそうだったから」
リオンはふっと笑みを浮かべた。
奇妙な関係だった。最初は正体不明の存在として警戒していた少年。
しかし、悠真たちが上陸して以来、ラグナ・リリスの中で過ごす時間は、彼との“奇妙な同居生活”となっていた。
「エーリカからの通信、止まったままだよな」
「うん。エーリカは最後に“干渉領域に入る”って言ってた。それ以来、艦の自動制御も一部がロックされてる。僕たちは、ここで待つしかない」
リオンは頷きつつも、その目はどこか遠くを見つめていた。
彼の中にあったのは、仲間たちへの信頼だけではない。
己の力不足、無力さに対する焦りも、同時にくすぶっていた。
彼は《リオン》という名の鍵を持つ男。
だが、自分自身でもその“鍵”の意味を理解できずにいる。
「ねえ、リオン。……僕、少しずつだけど思い出してることがあるんだ」
「……何を?」
少年は艦の壁面に投影されていた星図の一部を指差した。
「これ、前にも見たことがある。ここには“境界の門”って呼ばれている場所がある……気がするんだ」
「“境界の門”? 異界と現界の接点か……」
リオンは息を呑む。
以前、セラが話していた《次元転移》の技術。
そして、悠真たちがいる“異界”の謎。
もし、この少年がその中心にいる存在だとしたら――。
「記憶が戻ったら……俺たちが敵だったってことも、あるかもしれない」
リオンの言葉に、少年は小さく首を振った。
「もしそうでも、今の僕はリオンの味方だよ。たぶん、過去の僕がどんなだったとしても」
静かに微笑むその表情に、リオンは一瞬、かつて見た誰かの姿を重ねた気がした。
そのとき――
艦内通信が微かに反応音を鳴らした。
《……こちら、エーリカ。干渉領域を一部突破、限定通信回復に成功。リオン、聞こえますか?》
「エーリカ!? 今、どこに……!」
《短時間しか通信は持ちません。情報を優先します。五人の選ばれし者が“通路”を突破しました。次の段階に進むには、艦内の補助ユニット“ノード13”を起動してください》
「ノード13……それって……?」
《少年の記憶領域と連動しています。リオン、貴方の鍵が必要です》
通信はそこまででぷつりと途絶えた。
リオンは立ち上がると、無言で少年と視線を交わした。
「――行こう。あんたと俺で、次の扉を開ける」
ラグナ・リリスが再び、静かに動き出す。その先に待つのは、仲間たちとの再会か、それとも――新たなる運命の断片か。
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