第34話「忘却の通路」
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作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
――足を踏み入れた瞬間、色彩が消えた。
灰色の霧が満ちる空間。どこまでも静かで、どこまでも冷たい。
エリンは、息を潜めながら通路を進む。
「ここは……“私の記憶”?」
霧の向こうに、懐かしい風景が浮かび上がる。
故郷の村。
木造の小さな家。
見慣れた市場。
優しかった母の笑顔。
――そして、血に染まった夜。
「……っ」
足が止まる。
いや、止めようとしたのに、体が勝手に進む。
霧が巻き上がるたび、彼女の“忘れたはず”の記憶がひとつ、またひとつと再現されていく。
《お前は……なぜ、生き残った?》
霧の中から声がする。現れたのは、幼い頃のエリン自身。
いや、“もう一人のエリン”。
あの夜の後、感情を殺し、ただ“役目”だけで生きてきた仮面のような自分だ。
「あなたは……」
《私はお前の影。忘れようとした痛み、悔しさ、憎しみ……全部、私が抱えてきた》
その影は、目を伏せた。
《でも、もう限界。お前は“優しさ”だけで進めるほど、世界は甘くない。ここから先、何かを守るには、何かを――》
「犠牲にしろって言うの?」
《違う。“選べ”って言ってる。忘れるか、受け入れるか》
影の手が伸びる。
差し出されたのは、血塗られた短剣。
《過去の罪をすべて否定し、“忘却”を選べば、この通路は終わる》
エリンはしばらく黙ったまま、短剣を見つめる。
けれど――
「……違う」
彼女は手を伸ばさなかった。
「私は忘れない。守れなかった人も、逃げてきた自分も。全部、背負って生きていく」
その瞬間、霧が激しく渦巻く。
《ならば――“記憶”の重さを受け入れてみせろ》
影が叫びながら襲いかかる。
エリンは杖を構えた。
感情が魔導を貫く。
彼女が使う風魔法が、霧を切り裂く。
「私はもう、逃げない!」
激しい衝撃音とともに、影の姿が砕け散る。
霧が晴れると、そこに現れたのは、穏やかな光の扉。
エリンは息を整え、その扉へと歩み出す。
背中には、失われた記憶――そして、新たに得た覚悟が宿っていた。
扉の向こうに、仲間たちとの再会が待っていると信じて。
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