第33話「犠牲の通路」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
重々しい扉がゆっくりと開く音が回廊に響き、シアは一人、その前へと歩を進めた。
『犠牲』
その言葉が刻まれた通路の入口に立つと、背後の空気が急に冷え込むのを感じた。
心の奥を刺すような静けさが、彼女の鼓動をゆっくりと奪っていく。
(これが、私の進むべき場所……)
剣を腰に収めたまま、シアは通路に足を踏み入れた。
瞬間、景色が変わった。
目の前には、燃え盛る村。
瓦礫に埋もれた家々。
逃げ惑う人々。
そして、魔物たちの咆哮――
「……これは、私が……」
懐かしく、同時に忌まわしい光景だった。
かつて彼女が守れなかった村――故郷。
その中心に、剣を握る一人の少女が立っていた。
幼い日のシアだった。
「やめて……! お願い、もう一度あんなものを……見たくない!」
だが光景は止まらない。
むしろより鮮明に、より残酷に繰り返される。
少女シアは、敵に背を向ける村人たちを守るため、最後の力を振り絞って立ち向かっていた。
が、幼すぎる力では太刀打ちできるはずもなく――やがて、炎の中に消える。
「私は……あの時、もっと早く、もっと強くあれたなら……!」
膝をついたその時、別の声が背後から響いた。
「なら、やり直せばいい。違う道を、選べばいい」
振り返ると、そこに立っていたのは、もう一人の“自分”だった。
だがその姿は漆黒の甲冑を纏い、鋭く光る瞳をしている。
「もしあのとき、村人を捨てて逃げていれば――君は生き残り、今より強くなれた。
そうすれば、“もっと多く”を救えたかもしれない」
「それでも……私は、逃げなかった。あの日の私を否定なんて、できない!」
「ならば、代償を支払え」
影のシアが手をかざすと、空間が裂け、一つの“選択”がシアの前に突きつけられた。
それは、今この瞬間、自らの力の一部――“聖剣の記憶”を封印することで、かつての村を一時的に救う選択だった。
「その代わり、お前は今後、いかなる場面でも“聖剣解放”を使えなくなる。それでも、選ぶか?」
炎の中に、あの懐かしい人たちの声が響く。
あの笑顔。
あの手のぬくもり。
シアは、拳を握った。
そして、静かに答えた。
「――封印するわ。その力がなくても、私は仲間と共に進める。過去を変えるためじゃない、私自身を守るために、私は“犠牲”を選ぶ」
言葉と共に、彼女の胸の奥が焼けるように熱くなり、剣が白く輝いた。
次の瞬間、光が全てを包み込み、村の光景は消え去った。
気づけば、シアは再び回廊に立っていた。
だがその瞳には、確かな決意が宿っている。
「……大丈夫。私は“守る”ために戦う。犠牲を、無駄にはしない」
背後の扉が静かに閉じ、次なる者を待つように《忘却の通路》が光を灯し始める――
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